仕事完全復帰&サプライズ
筋トレなどで体力を戻すこと1ヵ月、仕事は数時間から半日だけ皿洗いやモップがけなどの簡単な場所に入る、ってのを繰り返して身体を慣らしていって。
やっと、今夜からウェイターに完全復帰する事になった。
でも、皆が思う懸念が1つあった。
そう、大火傷の跡。
ウェイターの格好は首元近くに襟があるけれど…やっぱり首は見えてしまうし、邪魔にならない為に袖を二回折って捲る為、腕の跡も見えてしまう。
だから、ジェイソンに内緒で皆で考えて…フルトンさんにも了承して貰った。
名刺より少し大きい紙に、ジェイソンの身体の大火傷の後の説明を書いた。
“I'm a big burn, back waiters.
Burn scars will disappear from my body.
Can be understood and appreciated.”
(“僕は大きな火傷から復帰したウェイターです
僕の身体から、火傷の痕が消えることはありません
ご理解頂けると幸いです”)
文字だけだと堅苦しい、という男子組の発言から、小さな絵をつけた。
バスケットボールや、ワイルドキャッツのマーク、ピアノや音符のマークとか。
作り終えてみれば、なんだか子供が喜びそうな感じの仕上がりになっちゃってたけど…
赤い紐を輪を作るように結び、その先にクリップをつけて、紙を薄いプラスチックケースに入れてから挟んだ。
それをフルトンさんに渡し、私達はお客様として入る為に皆で時間を潰した。
トロイとガブリエラも上手く予定を合わせてくれたようで、こっちに来ている途中で。
合流してからハグやらハイタッチやらで大盛り上がりして、ラヴァースプリングスカントリークラブのレストランに入る。
お客様として入るのは初めてだったから、皆が緊張しきっていた。
そこに、ウェイターとしてジェイソンがやって来て…当たり前だけど、かなり驚いていた。
フルトンさんに渡していたカードも、しっかり首から下げていて。
「な、なんで皆が居るんだい!?」
ジェイソンは驚き冷めやらぬ状態で。
「サプライズってやつだよ、完全復帰おめでとうサプライズ!」
ジークはシャーペイを抱き寄せながら、ニヤニヤしていた。
「わ、トロイとガブリエラ!遠いのに大丈夫かい?」
少し冷静になって来たジェイソンが、2人を見つけて嬉しそうに笑った。
「見舞いに来れなかったぶん、今日来たんだ…すまない、ジェイソン」
トロイはジェイソンにハグして抱き締めていた。
トロイもジェイソンが生きて此処に居ること、そして逢えたことが嬉しくて仕方ないようだった。
「本当に…ジェイソンが生きていてくれて良かったわ」
ガブリエラも嬉しそうにジェイソンに抱きついて。
ジェイソンは照れくさいやら恥ずかしいやら、首筋を軽く掻きながらはにかんでいた。
そして、ジェイソンに席に案内して貰って…適当に座った。
ジェイソンからメニューを渡され、どれにしようかと皆でメニューを隅々まで見て盛り上がっていた時だった。
小さい、恐らく4〜5歳くらいの女の子がウェイターとして来ていたジェイソンの火傷の痕に興味を示したのか、不思議そうに触れた。
その子のお兄ちゃんであろう、恐らく6〜7歳の男の子も興味津々にジェイソンと妹を交互に見ていた。
ジェイソンもまた、嬉しそうに笑いかけながら触らせてあげていた。
が、母親がそれを制止した。
叫ぶような声で、まるで穢れると言わんばかりに。
その大音量はかなりの範囲に聞こえたようで、場は一瞬で静まり、かなりの人が家族の方向に振り返っていた。
色々回っているウェイター・ウェイトレス達すらもびっくりして振り返っていた。
もちろん、私達も。
状況を理解したチャドは一瞬で怒りの表情に変わって飛びかかる勢いでその家族に向かおうとして、ジークに全力で羽交い締めされて、テイラーとガブリエラになだめられていた。
ライアンは悲しみと怒りが混じった表情で、マーサも同じような表情をしていたけど、ライアンを諌めていて。
トロイは額を抑えて首を横に振り、シャーペイは黙ってはいるけど怒りに震えていて、私は今にも泣きそうになって。
ジェイソンは、ただただ困った表情をしていた。
「…僕の肌に触れたって何も起きませんよ」
ジェイソンは困った表情のまま、静かに呟いた。
「僕の肌がこうなったのは、大火傷ですから…このプラカードにも書いてあるでしょう?」
そう言って、腕の火傷の痕に触れながら…爽やかに笑顔を浮かべた。
母親は何かを言いたげな表情をしていた。
すると今度は父親が大声を上げた。
「お前見たいな汚い奴がウェイターだと飯が不味くなる!目障りだ!」
ジェイソンの表情が一瞬、ほんの一瞬だけ…今にも泣きそうに歪んだけれど、ジェイソンは笑顔を崩さなかった。
完全にブチギレたチャドはジークから逃れようと大暴れして、ジークはそれを必死に抑えて。
テイラーとガブリエラも必死にチャドをなだめ抑えた。
ライアンは最早泣きそうになって、マーサが肩を抱いていて。
シャーペイはブチ切れ5秒前ぐらいの状態で、気づいたトロイがどうにかなだめていた。
私はといえば、涙が止まらなくなっていた。
悲しくて、苦しくて、辛くて、悔しくて。
私は涙を拭いながら、その家族の方に歩いた。
気づいた皆はびっくりして、固まっていた(チャドすらも)。
私はジェイソンに近づいて、抱き着いた。
ジェイソンはびっくりしてたけど、しっかり抱き締めてくれた。
「大丈夫かい、ケルシー?」
どうやら、ジェイソンはボロクソ言われている自分よりも、泣いている私の方が心配なようだった。
そこがまたジェイソンらしくて、少し笑ってしまった。
笑った事で涙が少し落ち着いた私は、家族の方に向き直った。
「彼は…ジェイソンは、汚くなんてないわ!」
言いたい事、全部言っちゃいそうで怖いけど…言い返す。
「ジェイソンは、ウェイトレスの女の子を庇って大火傷したのよ…ライターで、制服に火をつけられて!」
「制服はみるみる燃えて…火が消えた時には、意識不明の重体で…救急車で緊急搬送されて緊急手術して色々管繋がれて、命を何とか繋いで…ジェイソンが目を覚ますまで1週間もかかったの!」
「そっから壊死組織や衣服片の除去、皮膚移植、リハビリ…全てが終わるまでに3ヵ月かかったの!」
「体力を回復させて戻って来るまでを含めれば4ヵ月はかかったわ…」
「それだけの時間をかけて皮膚移植して治しても、ジェイソンの火傷の痕は消えないの!これからも…皮膚移植を何度繰り返しても、ずっと!」
そこまで叫んで、一旦大きく息を吐いて間を置く。
「ジェイソンのこの火傷の痕は…ヒーローの証」
「自分を犠牲に、生死を彷徨う程の大怪我してでも他人を守れる、優しくて強い男の印なの」
「あんたみたいなクソッタレとクソビッチより、ジェイソンの肌の方がよっぽど綺麗よ!」
言うだけ言い終えた私は、ハッとしてジェイソンの方を振り返った。
最後らへん、相当悪質な言葉を使ってしまったから。
ジェイソンは驚いていたが、私が見ていることに気づいて、一瞬で笑顔になっていた。
「ありがとう、ケルシー」
そう言って私を引き寄せて、肩を抱いてくれた。
兄妹の両親は固まっていた。
男の子と女の子は笑顔を浮かべ、キラキラした目でジェイソンを穴があきそうなぐらいにジッと見つめていた。
ジェイソンはそれに気づいたのか、子供達に笑いかけていた。
すると、何処からともなく拍手が起きた。
それを皮切りに、あっという間に拍手喝采になった。
ジェイソンに対する声援や掛け声が沢山聞こえて来たり、私に対する声援が聞こえて来たりして、今更恥ずかしくなって顔がみるみる赤くなって…すぐに恥ずかしさが最高潮になってジェイソンに抱き着いた。
私のことを察した(らしい)ジェイソンはケラケラ笑いながら、私を抱き締めながら頭を撫でてくれた。
拍手喝采は、しばらく止まなかった。
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