退院デート


ジェイソンはやっとリハビリ期間も終わり、なんとか退院する事になった。


「久々の外の空気…なんか不思議な気分だよ」


ジェイソンは周りを見回して、少し困ったように笑って。


「そうよね、3ヶ月近く病院から出られなかったんだもんね」


逆の立場に置き換えて想像してみれば、やっぱり不思議な気分になった。


「…心配かけてばっかの、駄目な男でごめんね」


二人で外の空気や景色を見ていたら、不意にジェイソンがそう呟いた。


その表情は、とても悲しそうな笑顔だった。


「…私だって貴方に沢山助けられて何度も心配かけてるんだから、おあいこよ?」


私がそう言ってジェイソンに笑顔を向ければ、ジェイソンは優しい笑顔になって。


「ケルシーはとっても優しいね…まぁ、そこが僕のケルシーの好きなところの一つなんだけどさ」


ジェイソンは頬を軽く掻きながら、照れくさそうにはにかんだ。


言われた私はといえば、恥ずかしいやら照れるやらで顔が真っ赤になってるし、心臓はドキドキで激しく脈打つしである意味大変だった。


「そーだ、ケルシーはこの後どうするの?」


ジェイソンが思い出したような表情をして私に尋ねて来た。


私は学校が休みの日だったし、そのまま二人でデートに行く事になった。


「…冬は厚着や手袋で隠せるけど、夏場は地獄かな…こりゃ」


ジェイソンが何やらぶつぶつと呟いていた。


「…大火傷の跡の事?」


私がそう尋ねれば、ジェイソンはびっくりしたように私を見た。


その表情がなんだか可笑しくて、つい笑ってしまう。


「独り言、声に出てた?」


ジェイソンが少し恥ずかしそうに笑う。


「うん、割と良く聞こえたわ」


そう返せば、ジェイソンは少し顔を赤くして。


「でも、ジェイソンは大火傷の痕を隠す必要なんて無いじゃない」


私がそう言うと、ジェイソンはそれはそれは素晴らしい程に驚いていた。


「だって、ジェイソンの大火傷の痕はヒーローの証だもの!」


そう、ジェイソンの大火傷の痕はエリー(科学部に居た三つ編みブロンドの学友で、あの時は偶然ウェイトレスに回されてた)を庇って負った大火傷なんだから…恥じる所なんて無いものね。


ジェイソンは少し複雑な表情をしたけど、すぐに何時ものように笑った。


「ありがとう、ケルシー」


そう言って、私の手を握ってまた歩き出した。


ランチ時だったので、御飯を食べにランチのお店に。


私はドリアとホットコーヒーを、ジェイソンはナポリタンとホットコーヒーを注文した。


待ってる間、何故だかテイラーとチャドの喧嘩ップルの話題になってて。


それも、数日前にテイラーが私に、チャドがジェイソンに喧嘩したって電話で話して来たからなんだけどね。


「なんであの二人は毎回毎回デートの度に喧嘩するんだか、僕にはさっぱりわからないよ」


ジェイソンは苦笑いして肩を竦めた。


「私も全然わかんなくて…毎回、返答に困ってる」


軽くため息をつきつつ肩を竦めていると、ホットコーヒーが運ばれて来て一瞬びっくりする私。


「あの二人、似た者同士だから喧嘩するのかな…」


そんな私を見て、少し笑いながらジェイソンが話す。


「…そうかもね、二人は本当に似た者同士だもの」


私の話に、ジェイソンはコーヒーを一口飲み込むと笑って頷いた。


「少し短気で意地っ張りで、強情で変にプライドがあって…凄く恥ずかしがりで照れ屋」


「それに、鈍感だし変なとこで抜けてるのよね」


私とジェイソンで二人の話題で盛り上がっていたら、注文していた料理が来た。


ジェイソンがナポリタンの皿を受け取った時、店員が怪訝そうな表情をしたのを私は見逃さなかったけど。


…ジェイソンも、気づいていたかもしれない。


でも、お腹ぺこぺこだったから…少し話しながらも二人揃ってパクパク食べていた。


ジェイソンは口の周りをソースでオレンジ色にしながら食べていて、なんだか凄く…子供っぽくて微笑ましかった。


「ジェイソン、口の周り拭いた方が良いわ、ソースいっぱいついてる!」


私がそう言って笑うと、ジェイソンは少し恥ずかしそうに紙ティッシュを取って口を拭った。


それが、皮切りだった。


通路を挟んだ隣の席のお客達が、あからさまにこちらを見てヒソヒソと話していた。


手や手首、首の火傷の跡を見たのだろう。


ジェイソンは私に申し訳なさそうに、悲しげな表情を向けた。


私はそんなジェイソンに大丈夫よ、って笑うと…ジェイソンは少し安心したようだった。


気づけば、周りの人たちがジェイソンを見ていた。


そして、チラチラと見ながらヒソヒソと話して居た。


店の外では手袋やマフラーで火傷の跡を隠せても…室内では外さなきゃいけないから隠せないものね。


嫌でも、周りの人たちの目についてしまう。


ジェイソンはダウンジャケットにマフラーを巻き、私に財布を渡してから手袋をはめて…早足で店の外に出て行った。


私は渡された財布を握りしめて、泣きそうになるのを必死に抑えた。


なんでジェイソンが周りに気を使わなきゃなんないのか


そして、どうしてこんな扱いをされなきゃならないのか。


怒りで頭が真っ白になりそうになりながら、支払いをして外に出る。


そこには、ベンチに座っているジェイソンが居て。


私に気づくと、私の元に来てくれて。


こんなに優しくて素敵なジェイソンが、あんな扱いをされたのが私自身の予想よりもかなり悔しかったのか…ジェイソンがそばに来てくれた瞬間、涙が止まらなくなって。


ジェイソンは一瞬びっくりして慌ててたけど、すぐにベンチに座るように促してくれて。


「どうしたの、ケルシー?」


ジェイソンは泣いている私の身体を優しく抱き締め、背中をさすりながらそう言った。


「…なんで、ジェイソンがあんな扱いされなきゃなんないのよ!」


私がそう言えば、ジェイソンは困った表情を浮かべて。


「…事情とかわからないだろうし、逆の立場だったら…僕だって同じようにしてるかもしれない」


ジェイソンは少しため息を混じらせて。


「ジェイソンは優し過ぎるわよ…!」


私は無意識にジェイソンの服を握りしめて。


「…それが、僕の唯一の長所だしね!」


ジェイソンはそう言ってケラケラ笑った。


その後もジェイソンは私が泣き止むまで抱き締めてくれて、頭を撫でてくれたりした。


やっと泣き止んでからは、歩いて色々な店に立ち寄ったりして…しっかりデートしてから、ジェイソンに送って貰って帰宅した。


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