生きる事が何よりの幸せ
ジェイソンが目を覚まさないまま、1週間目。
この日は仕事がまだ再開出来ないマーサと、仕事を切り上げて来たジーク、学校終わりのテイラーと時間が出来たチャドやライアン、シャーペイも来てくれた。
トロイとガブリエラは忙しくて来れないようだった。
シャーペイは自身が思っているよりも酷いジェイソンの火傷に、ジェイソンを直視出来なくなっていた。
「…こんな…こんな酷い火傷ってある!?」
シャーペイは怒りと悲しみで震えていた。
涙を何度も拭いながら、犯人への怒りを口に出していた。
ライアンはジェイソンを見るや否や呆然として、頭の理解が追いついていないようだった。
チャドは気づかれないように俯いて涙を零しながら、両拳を血が出るんじゃないかぐらいの勢いで握り締めていた。
「なんで…ジェイソンがこんな目に合うんだよ…!」
チャドの言葉は皆が一様に同じように思ったことだった。
「目を覚ませよ…目ぇ開けろよジェイソン!勝手に死んだりなんか、俺は許さねぇぞ!」
チャドが勢い余ってジェイソンの肩に触れそうになった瞬間、私は咄嗟にチャドの腕を強く掴んでいた。
「離せ、ケルシー!」
やっぱり男子は強いから、強く握り締めてても手を振り払われそうになる。
「やめて、チャド!」
掴んでいた手が離れた瞬間、テイラーが叫んだ。
チャドは手を止めてテイラーを見つめた。
「ジェイソンの火傷は背中以外の上半身全体なのよ!?肩掴んだら大変な事になるじゃない!」
テイラーはボロボロ涙を零しながら、チャドの腕を引っ張った。
チャドはテイラーの姿を見て頭が冷やされたようで、椅子に座って頭を抱えていた。
「…ジェイソン」
不意に、ライアンがポツリと名前を呟いた。
その瞬間だった。
ジェイソンの目が、ゆっくりと開いた。
ジェイソンは目を開くと、そのまま何度か瞬きをして、ゆっくりと目だけを動かして周りを確認していた。
「…ここ、は?」
ジェイソンはゆっくりと言葉を口にだした。
私は止まらない涙を拭いながら、答える。
「び、病院よ…ジェイソン、死ぬ寸前ぐらいの酷い大火傷して…1週間も目を覚まさなかったんだから…!」
私の話を聞いたジェイソンはびっくりしていたが、直ぐに表情が苦痛に歪んだ。
「ジェイソン!」
マーサがジェイソンに呼びかけたが、ジェイソンは呻き声をあげるばかりで。
数分して、呻き声の中に言葉が聞こえた。
「う…っぐ…あ…い、痛っ…い…身体、っ…熱、っい…!」
それを聞いたテイラーが、慌ててナースコールを押した。
「ねえ、テイラー…Ⅲ度熱傷は無痛なんじゃ無かったの…?」
私はつい、テイラーに尋ねた。
テイラーは少し考えてから、話しだした。
「恐らく、Ⅲ度熱傷の周りの植皮せずに治癒できる部分…指の一部や臀部の一部とかの浅達性Ⅱ度熱傷…いわゆる赤い水ぶくれが出来る火傷が痛んでるんだと思うわ…」
「この場合の火傷はズキズキとした痛みや熱いって感じる灼熱感、感覚が鈍くなるっていう症状が出るのよ」
テイラーが話し終えたぐらいで、ナースさんが現れ、一旦意識の回復などを伝えに出払った後、しばらくして医師と共に現れた。
医師はジェイソンの鼻から呼吸器を抜き、上半身の色々な場所に触れて痛みの有無を確認し、再度Ⅲ度熱傷を確認してから、痛む部分に軟骨を塗ってガーゼの上から包帯を巻いた。
そして、医師はジェイソンに火傷が余りに酷い事、皮膚移植をこれからずっと続けていかなければならない事、皮膚移植をすれば皮膚が癒着するまでしばらく安静で寝たきりみたいな状態になる事、上半身や腕は皮膚移植をしても酷い火傷痕が残ってしまう上にひきつれや色素沈着や剥がれる事すらあること、両腕のリハビリの事などを話していた。
話が終わり、医師とナースが去った後…ジェイソンはかなり動揺していたものの、しばらくすると落ち着いた表情になっていた。
「…生きてるって、凄いね」
不意に紡がれたジェイソンの言葉に、皆が頷いた。
「私も、健康で生きれてるのがどれほど奇跡なのか…身に染みて理解出来たわ」
私がそういうと、ジェイソンは笑って。
「ねぇチャド、ジーク」
ジェイソンは笑顔のまま、チャドとジークに声をかけた。
「なんだよ、ジェイソン」
チャドは満更でもない表情で、少し照れ臭そうだった。
「なんか頼み事か?」
ジークは何故かニヤニヤ笑ってて。
「もし退院出来たらさ、また皆でバスケやろうよ…トロイも一緒に…良ければライアンも一緒にね」
不意に名前を呼ばれたライアンはびっくりして変な表情になってしまい、皆が大笑いした。
ジェイソンも、ケラケラ笑っていた。
「ああ、約束だ!」
「ワイルドキャッツで2on2だ!」
なんて笑うチャドはジェイソンの頭をわしわしと撫で、ジークはジェイソンのほっぺをつついていた。
ライアンは「喜んで参加するよ!」って楽しそうに笑った。
それを幸せそうに受け入れているジェイソンを見ると、何故か涙が溢れた。
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