重度の大火傷


病室にはマーサと、先に到着していたテイラーとジークが居た。


ジークはしょんぼりと俯いていて、マーサはそれを優しく諌めていたけれど、マーサの目は真っ赤だった。


テイラーはと言えば、涙を拭いながらジェイソンの様子を見つめていた。


「ケルシー…来てくれて、本当に良かったわ」


私に気づいたテイラーが、ホッとしたように笑った。


「…ジェイソンの、容態は?」


そう口に出せば、テイラーは泣きそうにも見える表情を浮かべて。


「…ジェイソン、酷い大火傷で…病院に運ばれてからすぐに手術室に…今は数時間に及んだ、医師達の懸命の処置で何とか命を繋いでる状態よ」


「主に火傷は顔と背中以外の上半身…上半身は火傷が酷くて皮膚が溶け剥がれて結構出血してる状態だったらしいわ…恐らく、体液も結構出てるはず…」


「それに、首、肩、腰元にも火傷があるみたい…手首から先も火傷があるけど、軽いみたいよ…痕が残るかもしれない、とは言われたけどね…」


「今は皮膚移植に向けて、火傷の治癒待ちってところみたい…」


そこまで説明すると、テイラーは私の手を引いて、ジェイソンの側に行った。


ジェイソンは呼吸器をはめられていて、皮膚のある腕の内側に幾つか管(補液や輸血、栄養剤など)が繋がっていて、もちろん心電図モニター(名前はテイラーが教えてくれたの)も繋がっていた。


ジェイソンの身体にはガーゼと包帯が上半身中ぐるぐると巻かれていたけれど、ちらほらと赤い血が滲んでいた。


ジェイソンの予想よりも酷い状態に、私は言葉を失って立ちつくした。


少しの間広がった静寂の後、マーサが私に頭を下げた。


「…ごめんね、ケルシー」


そう口に出したマーサは泣きそうになっていた。


「…なんで、謝るの?」


マーサが謝る理由がよくわからず、ポツリと言葉を漏らす。


「…もっと早くに鎮火出来てたら…ジェイソンは、こんな事にはならなかったでしょうから…」


マーサは話しながら、ゆっくりと息を吐く。


「どういう、事?」


震える声を何とか抑える。


マーサはゆっくりと説明した。


「今朝、従業員が何人か一気にインフルエンザに罹ったみたいで…ジェイソンに限らず、休み取ってたメンバーは皆、来させられてたわ」


「それで、仕事してたんだけど…夕方、ジェイソンはウェイターだから、夕食を食べに来た人に対応してたり注文とったり運んだり、まぁフル稼働してたのよ」


「で、しばらくして…新婚夫婦が食べに来た訳…その夫婦はワイン飲んでご飯食べて、楽しんでたわ」


「それで、事件が起きたのよ…酔っ払った夫の人がエリー(ウェイトレス)に絡み始めてね…ジェイソンはそれを止めたの…そしたら、その夫が逆上し始めて…暴言の嵐に加えてジェイソンを何度か殴って…挙句の果てにライターの火を…ジェイソンのウェイターの制服に…」


「そっからは…凄く早かった気がするわ…」


「見る見る燃えていく制服、火を消そうと腕で火元を払いながら絶叫するジェイソン、走って逃げる夫、泣き叫ぶ妻、恐怖とパニックで失神するエリー、混乱する他の客…見事な阿鼻叫喚の地獄絵図よ」


「そんな中、他のウェイターのロウルやヒューズ、ヨハンらがバケツの水を持って来てくれて…何とか鎮火したんだけど…」


「ジェイソンは意識が無いし、制服は焼け焦げて肌にくっついてる部分もあるし肌はドロドロの水ぶくれ…ジェイソンを見たモーガンは救急車呼びに走ってくれて…」


「正直、あの時のジェイソンは死んでてもなんら可笑しく無い状態だったわ…」


そこまで話したマーサは、目元を拭いながらゆっくりと椅子に座り込み、うなだれた。


私は涙が溢れて止まらなくなり、テイラーに肩に手を回されて慰めて貰いながら、椅子に座った。


座った私は、ただただ声を上げて泣きじゃくった。

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