幸福からどん底へ


やっと、この日になった。


やっと、ジェイソンに会える。


私はその嬉しさから、何時もより早起きしてしまった。


少し時間を潰す為にピアノを弾いて、それからご飯を食べて、濃過ぎない様に軽くメイクして、いつもよりお洒落に着飾ったりして。


…ジェイソン、“可愛いね”って言ってくれたらいいな、なんて思いながら、メイクを一通り終わらせる。


メイクと洋服選びには大分時間がかかってしまったけど、納得行く感じにはなった。


部屋に戻って鞄のや中身を確認しつつ、時計を見れば、そろそろ出なきゃいけない時間で。


「そろそろ行かなきゃ…!」


鞄を持って、ブーツを履いて、外に出る。


今日はジェイソンが迎えに来てくれるから、それまで音楽を聴いて待つことにした。


けど、迎えに来てくれる時間になっても…ジェイソンは現れなかった。


「…ジェイソン、どうしたのかな…」


私は心配になって、慌てて電話した。


でも、留守電に掛かるばかりで出てはくれなかった。


「…何か、あったのかな…」


心配で涙が浮かびそうになるのを何とか抑えながら、一旦部屋に戻る。


そして、もう一度ジェイソンに電話を掛けるか、マーサに電話を掛けるか…悩んでいると、不意に電話がなった。


その間、外での電話を含めて20分ぐらい。


電話はジェイソンからだった。


私は慌てて電話に出る。


『もしもし、ケルシー』


少し焦りのある声だった。


「ねぇ、ジェイソン…何か、何かあったの!?」


つい、声が大きくなってしまった。


『…仕事、入れられたんだ』


ジェイソンはかなり落ち込んだ声をしていた。


「…仕事」


私はぼんやりと、ジェイソンの言葉を反芻した。


『…うん』


ただただ、涙が溢れた。


「…ジェイソンは」


仕方がない、って頭ではわかってるのに


辛くて苦しくて、涙がこぼれ落ちていく。


「…私より、仕事が大事なの?」


涙を拭いながら、声が震えるのを抑える。


『違っ、僕はケルシーが一番大事だ!』


普段なら嬉しくて堪らない筈の言葉も、今はただの綺麗事にしか聞こえなかった。


「だったら!何で…何で!」


私は色々な感情でぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくなっていた。


『こっちだって仕方ないんだよ!誰が好き好んで恋人とのデートすっぽかしてまで、朝からウェイターの仕事なんかしなきゃなんないんだよ!』


ジェイソンの語気も、かなり強くなっていた。


「ジェイソンなんか、大っ嫌い!仕事で酷い大怪我すれば良いのよ!」


それ以上ば言葉にならなかったし、出来なかった。


溢れる涙が止まらなくなり、口元を抑えていたから。


私は、握り締めていた携帯の切るボタンを震える指で押し、電話を切った。


そして、その場で顔を覆って、声を上げて泣いた。


こんなに泣いたのは、子供の時以来ってぐらい、泣きじゃくった。


泣き止んだころには、頭が痛くなった。

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