幸福万来


会える日が決まってから、私はずっとそわそわしてしまっていた。


本当はいけない事だけれど、授業もピアノもたまに上の空になっちゃうぐらい。


昼休みに入って次の授業の準備をしに行く時も、ついスキップしちゃったりして。


「やあ、ケルシー」


不意に呼ばれ、ドキッとして一瞬身体がビクッとなりながら、声の方に振り返る。


そこに居たのは、ライアンだった。


「こんにちは、ライアン…貴方も先に次の準備しに来たの?」


顔がニヤけそうになるのをなんとか抑えながら、至極普通の態度で接する。


「うん、昼休みはゆっくりしたいからね」


ライアンは相変わらずで、いつも優しく声をかけてくれる。


イースト高でも大人気だったけど、ジュリアード音楽院でもあっと言う間にダンスのクラスで大人気で、別のクラスでもちらほらとライアンの噂話が聞こえる程。


「ダンス、大変そうだけど大丈夫?」


私がそう尋ねれば、ライアンはにっこりと笑う。


「もちろん大丈夫さ!毎日楽しくて仕方ないよ!」


目を輝かせ、ニコニコ笑うライアンはとても充実した、幸せそうな表情をしていた。


「ライアン、彼女は出来そう?」


私がそう尋ねれば、ライアンは困った表情で。


「中々に難しいね、それは」


「最近、どうやったら彼女って出来るんだろう、って考えてるよ…ジェイソンに聞いたらわかるかな?」


ライアンは首をすくめ、何だか悲しげな表情になって。


「ジェイソンに聞く…それって、どうなんだろ」


私がそう呟けば、ライアンが笑って。


「あはは、時間空いたら本当に聞いてみようかな、ジェイソンに!」


冗談半分に言うライアンが可笑しくて、私はつられて笑った。


「そうだ、昼食一緒に食べない?」


私がライアンにそう話すと、ライアンは嬉しそうに私に笑顔を向けた。


「君が良いなら、是非」


そうして、私とライアンは一緒にお昼御飯を食べる。


私が飲み物を口に含んだ瞬間、不意にライアンが話した。


「なんか、今日のケルシーはいつにも増して楽しそうだね?」


いつの間にか嬉しくてそわそわしてたのがバレていたらしい。


聞かれてびっくりして、口に含んだ飲み物が気管に回ってしまい、激しく噎せてしまった。


ライアンは慌てて謝って、背中をさすってくれて。


しばらくすると、何とか咳が止まった。


「ほ、本当にごめんよケルシー」


ライアンが本当に申し訳なさそうに謝ってくれるから、私は「謝らなくて大丈夫よ!」って笑った。


そしたら、ライアンは嬉しそうに頷いて。


そうして、先程の話に戻った。


「私が…嬉しそうにしてる理由ね、今度の23日に久しぶりに会えるの、ジェイソンに!」


私が少しテンション高めに言えば、ライアンは笑って。


「どうりで楽しそうなワケだね、納得!」


ちょっと照れくさくなった時、昼休み終わりのチャイムが鳴った。


私はライアンと別れ、次の授業に向かった。

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