第4話 格ゲーキャラのまま異世界転移だ。

 目の前にはコンテニュー?の文字が浮かんでいた。K.O.された場合、

9からカウントダウンして0になったらゲームオーバーだ。

しかしカウントが無い。


――……これ、もしかしてコンテニューしないと

ずーっと動けない?うわ、なんかこわ。



ピロリン♪



 軽い効果音が鳴り、画面が一瞬フラッシュする。

次の瞬間に体が飛び跳ね、三メートルはある古代遺跡の天井近くまで舞い上がった。


「ひい!」


 目の前の少女、ウェーブがかった緑髪が可憐なアリシア・フォントレットが

びくりと体を震わせる。彼女は相当に蓮を怖がっているようだ。

巨躯が、音も無く床に着地する。痛みが完全に引き、絶好調になった。


「いやー痛かった――」


 蓮、いや、今はヴェノンの背中には冷や汗がたっぷりとかいてあったが、黒い全身タイツのようなコスチュームで周りには見えない。


「それで、アリシア」


「……は、はい」


「俺はいつ、キミのご両親に挨拶に行ったらいい?」


「へ」


あまりにも的を得ない質問に、アリシアの頭は真っ白になった。


「その、いくら俺でも……心の準備がいるというか……」


 ムキムキで異形のヴェノンがもじもじくねくね恥ずかしがる姿は滑稽を通り越して不気味だった。


「な、なにを言っているのかわかりません……」


怪訝な顔をするアリシア。はた、と疑問が沸いた。


「あの、あなたは……魔人様……なんですよね?」


「良く解んないけど、違うと思うよ」



「へ!?」

「へ!?」



お互いの返答が予想外だったようだ。


 「ちょ、ちょ、ちょ、待ってください!そんな、でも!どこからどう見ても人間には見えないし、亜人にも見えないし!人の言葉をしゃべる精霊の話なんて聞いた事もないし!あ、あなたは一体……」


腕を組み、少しの間考えて、うむ、と蓮は頷きこう答えた。


 「俺はきっと、天使さ。キミに出会うためにここに来たんだ」


ね?と右手を差し出し、左手を自分の胸に当て、膝まづいた。その姿を見たアリシアが、これまた膝から崩れ落ちる。


「うそおおおおおおおお!」


頭を抱えて絶叫する。


「わた、わたし……何と契約したんですかああ!?」


「さしずめ、恋の天使ってとこかな」


「あああああああああああああああああ!」


 アリシアが泣き叫んでいると、かすかな物音がした。周りに気配を感じる。ヴェノンには目という概念がない。人型のスライムといったところだ。全身が感覚器官であり、筋肉であり、腕であり足であり頭である。それなのになぜかアリシアの金的は効いたが。


「あれ一枚しかないのにいいいい!二枚目は買えないからとっておきだったのにいいいい!」


 わんわん唸っているアリシアをとりあえず置いておき、蓮は気配がする方を意識した。どんどん近づいてくる。その足音は、泣いているアリシアも気づくほど大きくなった。


 いかにも不潔なボロキレを纏い、右手には丸太のような棍棒を持ち、体は人型だというに、顔は豚のクリーチャーが現れた。



一瞬の静寂。



「わあああああああ!」

「ひいいいいいいい!」


二人は同時に叫び、その声をかき消すように豚が咆哮をあげる。


「ホギョアアアアアアアアアア!」


「じゅ、獣人!?オーク!?ま、ま、ま、まさか!?な、な、なんでええええええ!?」


 アリシアの大絶叫。それを聞きつけたのかゾロゾロとオークと呼ばれるバケモノが沸いて出てくる。


「いやあああああああああ!」


オークを集める原因になったかもしれないアリシアがさらに叫ぶ。


「た、た、助けてください……」

巨躯を震わせて蓮がアリシアの袖をひっぱる。


「なぁ!?あ、あなた!あなたが戦うんですよ!私弱いし!何の才能も無いし!」


「俺も無理。喧嘩したことないし」


「うそおおおおおおおおおおおおおお!」


じりじりと迫ってくるオーク。涙でぐしゃぐしゃのアリシアはそれでも「調教士」テイマーの根性を見せた。


「け、け、契約に基づき履行します!ヴェノン!私の敵を蹴散らしなさい!」


アリシアの言葉の後に聞き覚えのある機械音声が頭の中で流れる。



READY FIGHT!



オークを見ると、体力ゲージバーが現れた。視界の横には自身の体力ゲージバーが見える。


――このインターフェイス……「hero VS villain」ヒーローヴァーサスヴィランと全く同じだ。もしかしてこれ、ゲームの続き?ゲームと同じように動けるのかな。試しにオークへ2連コンボをお見舞いしてみよう。


前方へダッシュした途端、一気にオークが近づいてきた。いや、自身が速すぎたのだ。

 ヴェノンはスピードが遅く、防御力が低く、パワーが強いトリッキーなキャラだ。

それなのに、この速度。ゲームスピードが上がってる?このゲームにはスピード調節が八段階あり、標準と比べると八は約四倍の速度になる。


 蓮はゲームに途中で飽きて、速度八で遊んでいたので突然の変化にも対応できた。

まあいいかと蓮はオークの前へ滑り込む。


 軽いパンチを放った後、重いパンチを放った。パンチは途中でガードされること無く綺麗に入った。コンボの特性だ。コンボとは、攻撃と攻撃を繋げる技術で、

システム的にコンボを繋げている最中は相手はサンドバック状態になる。


――うん。同じだ。



K.O.



――え?


機械音声が頭に響く中、オークの体力ゲージを見た。……無い。元のゲームなら体力ゲージが一割減ったかどうかだというのに、オークの体力は完全に無くなっていた。


――紙かこいつら。


 試しに他のオークにも攻撃してみる。跳び重いキック、しゃがみ軽いパンチ、投げ……次々にオークの体力ゲージがゼロになる。次は必殺技だ。ヴェノンは自分を大きな顎に変え、噛み千切るという恐ろしい技がある。


「ヴェノンヴァイト!」


大顎に姿を変え、次々にオークを蹂躙する。



KKKKKKKKK.OOOOOOOOO.



K.O.が重なりすぎてちょっと笑える。次はお待ちかね。オメガアーツ。

通常攻撃や必殺技を相手に与えると、オメガアーツゲージが上昇する。

一定まで溜まると、ゲージを消費し一発逆転を狙える超必殺技を使えるようになる。

よし、とアリシアの所まで戻る。当のアリシアは、口を半開きにして目を見開いていた。


「ん?どうしたの?」


「……え、い、いや、あ、あなた……いったい……」


何に驚いているのか。とりあえず後回しだ。今はオメガアーツを試してみよう。


遺跡の入口、隠し部屋、柱の隙間、床を外してぞろぞろと出てくるオーク。丁度よく部屋が満杯になってきた。ずいぶんタイミングのいい。まるで技を確認するためのチュートリアルだ。あまりのオークの数に、アリシアの顔面は青くなった。頃合いだ。

よしいくぞ!


「ヴェノンストーム!」


その掛け声と共に、アリシアと自分の足元以外の床という床に、ヴェノンの体の一部が広く敷かれた。次の瞬間、敷かれた体から小さいヴェノンヴァイトが数えきれないほどに現れ、天井まで噛みついた。



『K.O』



二十匹はいるオークをほとんど同時に倒したためなのか、K.O.の掛け声が重く重なった。部屋の中のオークは完全に消滅し、機械音声が響く。


ヴェノン

WIN

PERFECT


VITAL   100000

TIME         ∞

SECRET   50000

BONUS   150000 


リザルト画面が目の前に表示された。


「やっぱゲーム?」


 そのままアリシアに振り返ると、チョロチョロチョロ……という音が聞こえた。アリシアが腰を落としている床からキラキラと光る液体が広がっている。思わず片手を顎にやり凝視したが、力なくだらりとした腕が気になり、そのまま肩、首と視線を移す。すると、白目で口から泡を吹いている美少女の顔があった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る