放浪凡譚

@usamin0325

前書き

 放浪凡譚 前書き

 生まれてこの方、30年余。しかし未だ腰を据える場所も無く、今まで心から落ち着いたということがないという奇妙な境涯の持ち主である私を人は社会不適合者と言うだろう。全くその通りである。この言葉ほど、私の気性並びに人生を描写する言葉はないといっていい。

 この汚名を返上するべく、兎角、何か努力でもしようとは思わない。そんなことは徒労であり、到底叶わないことと既に過去の経験から分かり切っているのだ。結局、私はこの汚名に甘んじ、軽佻浮薄極まる態度で手に余りあるこの人生を生きるより他は無い。

 二十歳以後の私は、まさに孤独と流転の毎日であった。

 20歳の頃、音楽に突然興味が失せた。14の時に聴いたパンクで音楽を始めようという気になったが、やればやるほどに、事態が沈滞を繰り返すばかりで不満だけが募り、気力がまるでコーヒーカップの底に砂糖が溶け切らず沈殿していくようだった。この虚脱感といったら無かった。やってもやっても満足とはほど遠い。とうとうそれで気を揉んで辞めた。しかしそれでよかったのだ。

 いくらやっても、白人や黒人が奏でるものには何処にでもいる日本人の中で格別劣っている私にはとても追いつかないのだ。そう悟った。正直なところ、日本語には無い、英語の言語の音節と先天的ではないリズムやビートの感覚に、どうやっても日本人の私が順応など出来っこないのだという諦観が、今も私の胸に潜んでいる。

 それにミュージシャン志望の連中が自己撞着していく様には、癇性な私には我慢ならなかった。いつも言っていることとやっていることがあべこべで矛盾しているように見えて、彼らの何処を信じればよいのか分からないものだった。

「俺、大学院出たら、フリーターでもして夢を追うわ」などと宣う甘ったれた奴や、「俺、この曲聴いて人生が変わった」などと大言壮語する軽薄な奴。私が後に彼らのそれら詭弁めいた物言いについて鋭く指摘すると、決まって彼らは逆上し、最後にこう私に罵声を浴びせる。

「お前、俺を見下してるやろ?、だからいつまで経っても、お前は孤独で一人なんや。」

 今、私の軽佻浮薄な振る舞いを思えば、彼らのこの言葉に異論はまったく無い、が、しかし、言い表すこと、つまり表現とは、どこに心の拠り所を求めていいのか分からないこの浮世で、孤軍奮闘し自身の感慨なり価値観なりを公に表すことであるならば、彼らの、孤独を毛嫌いする態度は誤っていると言えないだろうか。もし仮に、私の言い分が正しいとすれば、孤独を恐れて表現を行う事自体、無駄な所行に過ぎないであろう。それは所詮、欧米人の猿真似に等しく、付和雷同している愚かで恥ずかしい己の姿を世間に晒すだけに過ぎない。何せ、坂口安吾の言いぐさを借りれば、孤独こそ真理への近道であるからして、こんな連中に表現は務まらないのだと、私はこのように思って、惨めったらしい青春に覚えた溜飲を下げて生きてきた。

 ますます、ひねくれ気を腐らせていた24の頃、スタンダールの「赤と黒」を読んで、途端に夢中になるものが出来てしまった。文学は恐ろしい程、人を頽廃させるものらしく、私の放浪癖がこのころから、更に酷くなった。

 つまらない喧嘩を彼女や友人とすれば、黙り込んで、何も告げず、私は決まってどこかへぶらり出たきり、しばらく彼らの元には帰って来なかった。虫の居所が悪いと、もう二度と会うことも無かった者もあった。

「あたしと本、どっちがいいの?」 

 ある時、彼女に構うのも忘れて文学の中に人生の宿痾の答えを求めていたとき、彼女にこう訊かれて、何故か憤りを覚え、淡々と、

「そんなことを言うなら別れようか?どっちも甲乙付け難いしな。」

 こんな調子の私であるから、すぐに愛想を尽かされ、孤独を再び味わうのだ。多分、ここでいい男を演じたいのならば、こう言うのだろう。

「本の中の世界よりも自分の方が大切だ。本に熱中するのは、言葉ではわからない君の本心を理解するためさ。」

 私にこんな白々しい台詞など言える甲斐性は持ち合わせていない。まずそんなことを言い出せば、きっと私は自分では無くなってしまう。恋愛においても劣等生である。

 ご察しの通り、結局、私は身勝手、子供じみた性分を残したまま、大人になったのである。これを他にどういう言葉で言い表せば良いものか?

 だからといって、社会不適合という烙印に蝕まれ、これから先の人生を惨めったらしいものにするつもりは毛頭無い。こうなれば、自棄になってこの烙印のまま、生きて抜いてやるだけである。

 以下は、私の決意表明にも近い散文である。そして、デカタンス気取りの自堕落な生活を送る私なりの、事なかれ主義の潔癖症な世間へ抗議でもある。

 ただ、判然としないのは、この散文をこんないい加減な形で発表してよいものかどうか?文学的意味合いを込めて書いている訳でもないから、いいのだろうけど、まあ、時期に有名にでもなったらこれはこれで大変だ。

 いずれにしても、林芙美子の放浪記みたいな結果になれば、本望だが、そうは問屋は卸さないだろう。

 そんな訳で、適当に読み流して頂ければ幸いである。

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