第5話 デートの噂とヘビーな事情
亮太の運動会が終わるとすぐに中間だったが、何だろ? マジで勉強のコツみたいなの、わかってきた感じなんですけど。
で、結果は上々だった。マジか!
なんか美月のこと、イジメられねぇなぁ。
いや、イジメるけどね、自業自得だしね。
しかし、物事の
そしたら•••。
「じゃあ、買い物に付き合って!」
まぁ、これが美月だよな。
そんでもって、土曜日。
近くのモールだとばかり思っていたら、駅前で蕩子さんが待っていた。
美月、言えよ! あ~、もっとマシな格好してくりゃよかった。
「久しぶりだねぇ、洸太くん」
「ちわっス」
「今日はよろしくね!」
「は、はい•••」
俺はクルッと美月の方に向いて、にこやかに近づく。
逃げようとする美月をヘッドロックして事情聴取すると、秋葉原までマンガ描くのに必要なものを買いに行くということだった。
言えよ! 俺も聞かなかったけどね。
で、蕩子さんはアドバイザー、俺は荷物持ちだそうだ。
移動の電車の中での2人の会話は、到底俺なんかが入れるレベルではなかったので、寝たフリをしていた。
秋葉原に着くと、さっそく店に入って色々と品定めを始める2人。
•••俺の脱オタの決心、どこにいったんだろうな。
1人、
その後、店員も
買う予定だったものは全てゲットしたみたいで、昼飯を3人で食べた後、(その手の)本屋に行くからということで蕩子さんとは別れた。
軽いものは美月が持ってくれたとはいえ、帰りの道のりは長かった。
購入した機材一式を美月の部屋に置いて帰ろうとすると、背中を引っ張られた。
「一緒にセッティングしよ、ね!」
やれやれ•••。仕方なく箱からPCやらモニターを出して電源やLANをつなぐ。スキャナーやプリンターの位置をあーだこーだやった上で、電源ねーじゃん! てことに気づいた時には、もう2人ともエネルギー切れだった。
また明日にしよう、ということで家に帰ろうとすると麻由さんが帰ってきた。
「あら、いらっしゃい」
「すいません、もう帰りますんで」
「美月は?」
「部屋で疲れて寝てると思います」
「••••••」
「え? いや、今日、買い物行って、パソコンとか色々買って、それを今まで設置してただけで、別にそんな変なことは•••」
「あはははは、大丈夫よ。それに洸太くんだったら、むしろこちらからお願いするよ」
やっぱり美月の母親だなぁ•••、と思う。うちの母さんとキャラが少し似ているんだよな。
「色々ありがとうね」
玄関までいったところで、少し前から気になっていることが頭をよぎる。
「ん? どうしたの?」
「•••あの」
考えるより先に声がでていた。
「この間、運動会の時に言っていた、美月が
麻由さんは目を見開くと、俺に指でコイコイとする。そのままキッチンに入ると自分の席であろう場所に座って、視線でテーブルの向かいにある、たぶん美月の席に座れと指示する。
「えっと、美月が
「はい」
「そっか。じゃあその前に」
「?」
「美月を見ていて、気づいたことない? ヒントは亮太くん」
「•••あります。美月、亮太というか、小学生男子のことが、なんか好きみたいで」
俺としては、かなりオブラートに包んだつもりだった。
「それ。そういうこと」
いや、全然わからないから。
「あ、ごめんごめん。でも、もう正解みたいなものだよ」
「•••すみません。やっぱりわからないんですが•••」
「んー、まあ、言っちゃうと美月、本当は弟か妹がいたんだ。でも私のお
「! ご、ごめんなさい。お、俺•••」
「あー、待って待って、大丈夫だから。それにまだ続きもあるから」
「は、はい•••」
「美月はね、あ、その時のことだよ。なんか絶対に弟だって決めつけていてね。で、そんな時にうちの旦那が車にひかれて•••。そのうえ赤ちゃんまで流れちゃってね」
単なる中学生には、とてつもなく重い話だった。でも、聞いたのは俺なんだから、最後まで聞かなきゃな。
「当たり前だけど、美月は相当ショックでね。私ももちろんそうだったけど、美月がいてくれたからね。それから時は流れて、っていうありきたりな感じなんだけど、ただ美月のその弟に対する想いがね•••」
「小学生男子が好きという方向にいったと?」
「そうそう、なんか変な道に迷い込んだみたいでね。まぁ、父親の時もそうだったけど、これも時間が解決してくれるんじゃないなかなぁ、なんて」
本当に軽いのか、俺に気をつかってなのかわからなかったけど、美月がショタになった原因について俺は知ってしまったわけで。
俺は麻由さんに頭を下げると自分の家へと戻った。
+++
月曜日。
学校に重い足取りでなんとかたどり着く。教室に入ると一瞬、俺に視線が集まる。だが、またすぐに戻った。俺が不思議に思っていると
「坂井、土曜、一緒にいたのって、誰?」
「なんのことだ?」
「ほら、秋葉原でなんかめっちゃ美人と買い物してたじゃねぇか?」
「え? あれ、見たの?」
「バッチリ!」
で、教室がこんな雰囲気になっていると。
っていうか、テメェがクラスの皆にバラしたんだろうが!
とりあえず友人(オタク)Aをシメる。
やれやれという感じで、ちょっとわざとらしく大きな声で
「彼女なんかじゃねーよ! 友達の友達っていうか? まぁ、とにかく違うから!」
これで大丈夫だろう。
そしたらAが声のトーンを落として
「だって、あれ年上だろ? なんかすげーいっぱい話していたじゃん?」
「お前、ストーカーか? あれは買い物の相談をしてたの」
「でも2人で出かけるって•••」
「いや、お前の視界には入ってなかったみたいだが、もう1人いたんだよ。ちなみにそいつの買い物で、そいつの知り合いが俺で、お前が見た美人もそいつの友達なんだよ。つまり美人は俺の知り合いの友達で、あの日、始めて話したんだ!」
「うーん、いたっけ、もう1人?」
美月、お前視界にも入ってないぞ。
思わず笑ってしまった。
「まぁ、そういうことだ」
「わかったよ。ただ、あんな美人と仲良く話して買い物している時点でかなりうらやましいけどな!」
それについては、俺もそう思っているので、ただ笑うだけだった。
まさか見られていたとはなぁ。
まぁ、真宵ちゃんも人の
この少しあと、俺は真宵ちゃんのセリフの続きを忘れていたことに後悔するんだけどね。
「現代はネットがありますからね。75人に知れたら世界中に知れたと同義です」
+++
「なんか最近、違和感を感じるんですけど」
亮太を後ろから彼氏のように抱きかかえながら、美月はジト目で俺を見てくる。
「亮太も嫌がってないみたいだしな」
まだこちらをうかがってやがる。疑り深い奴だ。
「そういえば、こないだ買ったやつ、調子はどうだ?」
「•••難しい」
「美月、理系脳なんだから、機械とか得意だろ?」
「機械の操作とかじゃなくて、とにかく思った感じにならないの!」
「ミー、大変なの?」
「え? ううん、ただお兄ちゃんがミーをイジメるの」
「兄ちゃん、ミーをイジメないでよ」
「•••あ、うん」
今までだったら、アイアンクローをおみまいしているところだが、やっぱりどこか麻由さんの話が引っかかって、調子が出ない。
ため息をついて、頭の中のモヤモヤを忘れるように、美月に言われた課題をせっせとこなしていった。
+++
中間が終わったと思ったら、すぐに期末だよ。まあ、今までと違って付け焼き刃的だった試験勉強が前回の中間あたりから変わってきていた。
よーし、やるか!
気合いを入れた瞬間、美月からのラインが来た。
「ちょっと来て」
なんつー呼び出しじゃ。と言いつつ、亮太が寝ているのを確認して、窓からベランダのヘリをつたって美月の部屋に入る。
「なんだよ、こんな時間に」
「洸太さ、なにかお母さんに聞いた?」
上目づかいで見上げるな!
鼓動が速まる。
「な、な、なにを言っているんだい?」
「はぁ、お母さん、話したのかぁ•••」
美月は肩を落とす。
変な空気になる前に俺は頭を下げた。
「その、ごめん。俺が麻由さんに聞いたんだ」
別に怒るわけでもなく、悲しい
「•••そっか。で、どう思った?」
「いや、どうって別に、そうなんだぁ、って?」
「ふーん。で、最近、怒らないんだ」
また、静かになった。
俺もうまく今の自分を説明できない。
「いや、怒らないっていうか、麻由さんも言ってたけど、そのうち
「••••••」
「美月?」
下を向いてしまった美月を心配して声をかける。
「ふっふっふっ、ブァカめ、私が亮太くんといちゃいちゃするのは弟とかじゃない! 小学生男子だからだ!」
「え?」
「チャンスさえあればお風呂も一緒に入ってやるゼ!」
「み、美月さん?」
「そうなった
「やめぇい!」
スパーンと美月の後頭部を
美月は痛そうに下を向いてフルフルしていたが、顔をあげてニッと笑った。
「やっとツッコんでくれた」
「え?」
「やっぱり洸太のツッコミがないと調子が狂うのよね」
こいつ、何を言って•••。
美月は
なんでだかわからなかったけど、俺は顔が熱くるのを感じていた。
+++
期末、長かったよ•••。いったい何教科やったんだ!
そんな期末テストも今日でやっと終わった。
学校から帰って、自分の部屋にたどり着くと、ハタッと力なく倒れ込む。
頭だけ動かしてカレンダーを見た。もうすぐクリスマス。
亮太と違ってサンタさんではなく、その上位存在である母親に対して、俺はテスト結果も含めて効果的なアピールを目下、検討中だった。
なんとしてもPS4をゲットして、年末年始はゲーム三昧だ!
ふと、頭をボンバらせ、目にクマを作って、やつれた美月を思い出す。
いやいや、別にネトゲ廃人になるわけじゃない。何事も限度をわきまえれば•••。
窓の外に、その美月がへばりついていた。
キャーッ!
とりあえず部屋に入れると•••。
「洸太、期末って今日までだったよね?」
「そうだけど」
もう、やな予感しかしない。
「あのね、今回は洸太に言われたように前々から期限をつけてやってたんだよ」
「•••言い訳はいらん。で、なんだ?」
「助けてください!」
マジか?
土下座はよせ!
パターンとして、こういうタイミングで
「洸太、お昼ご飯、チャーハンでいい?」
母さん、お願い。
ノックして。
俺と美月を交互に見た母さんはビシッと俺を指差し。
「お前が悪い!」
だよねー。
かってにチャーハンに決め、かってに俺を悪者にした母さんが部屋から出ていくのを見て、俺は美月に言った。
「助ける? そりゃ無理だ。美月が勝手に一人で助かるだけだ。助けない。力は貸すけど※2」
このセリフが言えただけで、手伝う価値はあるかな?
言ったはいいが、恥ずかしくて美月の顔がまともに見れないなんて、俺もまだまだ修行が足りない。
※1 偽物語の八九寺真宵のセリフより
※2 化物語の忍野メメのセリフより
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