82%のミルク

今日は、二月十四日。バレンタインデー。もちろん、乙女の私は忘れない。最近減っているといわれている本命チョコだけど、私はしっかりと作っているからそんな実感は湧かない。目当ての人は、千葉守。決して、千葉県を守ったヒーローではない。守る予定も……ないと思う。なんせここは、千葉とはかけ離れた四国だからね。それでも、守は、私にとってはスーパーヒーロー。私たちは幼馴染で小さい頃からいつも一緒にいた。遊園地にも行ったし、お泊りもしたし、一緒にお風呂に入ったこともある。小さい頃だけど。でも、それは、幼馴染だから。守は他の女の子たちからモテモテだし、彼女とデートして立って噂も聞いたことがある。私のことが好きなんて、聞いたことも、言われたことないんだけど、どうしてチョコを作ってしまうのだろう。私は、どんなチョコを作ろうか、真剣に悩んでいた。

                 ※

2月に入ったばかりの頃。

「今年も、一人でチョコを作るの?」

二階でテレビを見ていると、お母さんが聞いてきた。

「うん。」

そっけない返事をすると、思わぬ返しが。

「守くんに本命チョコ渡すんでしょ。」

先週45の誕生日を迎えたと考えると、意外すぎる反応だ。わざわざごまかす理由もないので、

「そうだよ。」

と答える。自分の顔が真っ赤になっているのが分かったので、お母さんが二階に上がってこないでほっと安心した。無心にチャンネルを変えると、チョコ作りの講座をやっていた。私は、急いで、番組を録画して、ノートを一枚破り、シャーペンを手に持つ。まだ始まってすぐだったようで、安心のため息を漏らす。

                 ※

そして、舞台は再び、当日。放課後には朝から始まったチョコラッシュもサッカー部や野球部の終了とともにその勢いを弱めていった。誰もいなくなったと思い、私にいこうとすると、とんぼ返りしてきたサッカー部のマネージャーが、片付けをする守のもとに。マネージャーも帰ったので、そのラッシュの最後を飾ろうとするが、なかなか一歩が踏み出せない。ビクビクしていると、守の声が飛んできた。

「来てくれないなら、こっちから行くよ。」

何でもお見通しというわけか。私の胸を鼓動を脈打つ。それから、私の心臓の音と守るの足音が重なっていく。私は赤面しながらも守の前に立つ。

「早くチョコくれよ。」

犬のおてのように、私の左手にポンと、手を載せてくる。私はククッとのどで笑ってしまったが正気に返ると、話がおかしい。好きでもない女のチョコをねだるなんて。一瞬戸惑ったが、大きく息を吸い込んでチョコを出す。

「はい。」

私は、すぐに後ろを向きながらも反応を見るため、ちらちらと守の方向を見る。守は早速蓋を開けた。私が作ったのはチョコが付いたラスク。

「甘いの好きだから、ミルク82%。」

「82%?」

守の言葉にこくりとうなずく。

「うめー!今年初チョコだわ!」

私は驚き、守を見る。

「いやー、好きな人以外のチョコとか食べたくないから。」

いつもは、分からないのにこの言葉の真意だけははっきりと分かった。

「ごめんな。ありがとう。」

来年も俺以外には渡すなよ。心の中で守はそう呟いた。

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恋~バレンタイン短編集~ 82% @asagohan

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