重なり

 例えば、子供だと正月にはお年玉。誕生日とクリスマスにはプレゼント。男の子だとバレンタインチョコ。大人になると父の日、母の日、結婚記念日なんかもそうだが、一年三百六十五日のうち記念日というのは数少ない。だから、「記念日」なのだが。しかし、わずかなその日がなくなってしまったら。

 そんな悲しい青年がここにいた。彼の名は堂本貢。誕生日は、二月十四日。これでモテない残念な少年なら、なお、可哀想なのだが、彼はイケメンで秀才なので、毎年これでもかというくらいたくさんのチョコをもらっていた。不幸中の幸いだ。お母さんからは「GODIBA」のチョコをもらっていた。お分かりだろうか。彼は生まれて十三年間まともに誕生日を祝ってもらったことがなかった。チョコを食べることができるようになった五歳までは、盛大に祝ってもらっていたが、そんなことは覚えていない。まして、弟ができてからはそんなことすらなくなってしまったのだ。貢はそれからというもの、自分の誕生日を忘れられてしまったと思い、母親との関係もギクシャクするようになってしまった。

 誕生日であることなど気にせず、貢は今日も登校する。例によって、彼は、大き目のトートバッグを広げ、下駄箱にあるチョコを一つずつ入れていく。教室に入ってからもたくさんのチョコを受け取る。だが、まだ「誕生日おめでとう」と言ってくる人はいない。貢は一つため息をつく。貢はトートバッグの中身を見るが、誰から貰ったすら分からないチョコなんて食べる気がせず、弟にでもあげてしまおうと考えていた。貢は放課後も幼馴染の花恋にチョコをもらったが、それは教室でのことで添付された手紙を読んで、校舎裏へと向かった。花恋は何か相談があるときに貢をそこに誘う。まあ、なんとなく男の勘で大したことではないと感じていたのだが。帰りの会が終わり急いで駆けていくともう花恋はいた。チョコありがとな、貢は言う。花恋は一つうなずく。それでさ、貢は今日誕生日でしょ、彼女はそう言い、彼女のリュックから一つの箱を取り出した。あんまり大それたものじゃないけど。貢が、その箱を開けると、中には手作りの丸いケーキが入っていた。おめでとう、貢。花恋は、顔を赤らめて声をかけた。バレンタインなのにケーキを作ってお母さんに不思議に思われちゃった。照れながら話す花恋を可愛いと思う貢だった。

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