桐子side

第25話 失楽園

 朝起きて朝食を作り、波夫を送り出した後、私は学校に行かなかった。


 行く意味がないこともわかっていたし、女王にも、行かなくていいと言われたから。


「その代わり、一時的におにいちゃんを保護する準備をしておきなさい」


 彼女はそう言った。



 女王の言った事、必要だと言った物がいったい何の役に立つのか私にはまったく理解できなかったが、女王の言う通りに準備した。


 作業を一通り終わらせた私は、ケイさんと二人で、他に誰もいない自宅で昼食を取る。


 二人とも、朝から無言だった。


 私は、実はケイさんのことを疑ってはいなかった。


 きっと、何かの理由があってのことだったのだろう、そう思っていた。


 だから、ケイさんが何も言わないのが、つらかった。



 本当は何かあったのか? と疑いそうになってしまうから……



 もちろん、元々いけないことをしていたのは私だ。だから、彼を責めるのは筋違いだし、逆に彼から許してもらえるとも思っていない。自分のことを棚に上げているのは重々承知していた。


 しかしだからこそ、私はじりじりと追い込まれていた。精神的な心のよりどころが欲しかった。女王のいない空間で、私という存在を必要とする存在が欲しかったのだ。



 それに、私には身内以外、誰にも知られていないはずの「過去」があった。


 本来ならそんなことを思い出すことはなかっただろう。だけど、ケイさんのあの作り話を聞いたあと、私のあの記憶はまざまざと蘇ってしまったのだ。


 そして、そんな私を救ってくれるのは、やはりケイさんしかいなかった。彼なりの方法で、私を過去の呪縛から解放してくれるのではないかと、なんとなく、そう思ったのだ。


 私を忌々しい、過去のあやまちから解き放ってくれるのではないか、と。



 食事を片付けた私は、そのままケイさんと自室に入った。


 そして、何も言わずに服を脱いだ。

 


『え? 桐子さん?』


 そう言って慌てるケイさんを抱きかかえ、私はキスを落とす。


 最初は困惑していた彼も、徐々にそのねっとりとした動きで応えてくれた。






 それから後は、彼に体を任せるだけだった。


 官能的な深いキスは、私の忌々しい過去を呼び起こしつつ、意識を失わせた。

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