第19話 拘束

 翌日、教室の中の男子生徒は半分ほど学校に来ていなかった。


 ケイさんの言っていた通り、戦いが始まったみたい。


 私は授業中に脳に入ってくる情報から、世界各国での戦闘状況を把握しつつも、心ここにあらず、というか、心はどこにもなかった。


 ケイさんは黙って私を支えてくれる。これまでも。今も。

 私がその期待を裏切っているだけ。そして、それは今後も続くのだ。


 女王の言葉が思い出される。



「新しいストッキング、もう何枚か買ってあげなければなりませんね」



 あの言葉に同意してしまった私は、身も心も女王に支配されている。


 もちろん、女王のせいではないし、何の言い訳にもならない。ただ、私が苦悩の中で自分の体が他人にどんどん開拓されていくのを知ったら、ケイさんはどんな思いを抱くのだろう?



 そう考えるだけで、背筋が凍り、体がうずいた。

 今自分が穿いている、ガーターストッキングが私を拘束しているように思えた。


『大丈夫。僕がついてる』


 授業中、ケイさんは私に何度もそう言ってくれた。そのたびに私は力なくうなずく。


 おそらく明日にはクラスの男子はいなくなるのだろう。それについて深く考えなくて良い私は、幸せ者だと思う。そして、自分は弱いのだ、と認めざるをえない。


 これから先、どんな未来が待っているのだろう? どんな生活が待っているのだろう? 現時点ですでに、私のケイさんへの思いとは裏腹に、体も心も、そして普段の思考さえも女王にコントロールされている。そして、もし私が不要になれば、女王に捨てられる運命なのかもしれない。だが、それに抗うすべは、ないのだ。


 間違っていることはわかっている。けれど、これまで私は、自分から率先して何かをしようと思う人間ではなかったし、そういったことができる人に引っ張られて生きていたいとずっと思っていた。


 ケイさんはいつも優しく、私に寄り添ってくれる。だけど、強引に引っ張る女王に私が振り回されることを止める力はない。そして私自身、女王に捨てられてしまったら、どうやって生きて行けばよいのかわからないのだ。


 もちろん、自分の考えが大それたものであり、解決の手段がなく、いかにわがままであるか、ということは重々承知しているつもり。私自身が女王の傍にいられるのは、単純に血縁関係があるから。だから彼女に捨てられないよう、私は自らのすべてを女王に差し出すしかない。


 その私の憂鬱ループを、ケイさんは共有していた。


 帰り道、ケイさんが私に寄り添ったまま、言った。


「僕に……僕に、力があれば……」


 私は、涙が止まらなかった。

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