ケイside

第20話 兄と弟

 桐子さんと帰宅した僕は、カケルと少し話すことにした。


『なあ、カケル。やはり、桐子さんとお前は……』


『兄貴、ごめん!』


 突然カケルは頭を下げた。


『兄貴、俺、どうしようもなかったんだ。誘惑に打ち勝てなかったんだ』


 カケルは涙を流しながら僕に言った。


『カケル……』


『俺、まのみんに言われて、「エレクチオンの塔」に行ったんだ。そしてそこで、力を得てしまった。ただその時、塔はすでに危機的な状態だったんだ。しかもそこに桐子さんがいた。俺は桐子さんを救おうと急いでその場を脱出した。そして……』


 カケルは感極まって、言葉が出てこないようだった。


『そして……俺は自らの力を試そうとして……やってしまった……』


『……そうだったのか……』


『だが、それを香織に知られてしまった。俺はもう、香織には逆らえない。そして桐子さんも……』


『…………』


 声が出なかった。


 僕がカケルを香織ちゃんに紹介したばかりに、こんなことになってしまうとは……


 そして何より、このことで桐子は苦しんでいる。


『兄貴、ごめん、俺の心が弱かったばかりに……』

『いや、おまえのせいじゃない、気にするな! お前はよくやったさ!』


『兄貴……』


 もちろん僕にカケルを恨む気など、なかった。


 ただ、カケルが手に入れた力のことが、気になった。


『カケル、手に入れた力のこと、そして、その「エレクチオンの塔」のことを教えてくれないか?』


『え? 急にどうしたんだ?』


『僕は、その力を手に入れ、桐子さんを守りたいんだ……』


『…………』


『どうした?』


『兄貴、すまねえ。仮にその力を手に入れても、兄貴は香織には勝てねえ……』


『やはり、そうなのか……』


『ああ、あいつは恐ろしいやつだ。そして、兄貴もそのうち、それを味わうことになるだろうよ……』


『どういうことだ?』


『香織には俺の攻撃が通用しなかった。新しく手に入れた力をもってしても、あいつの中に巣食う怪物には届かなかった』


『…………』


『俺が硬化できる時間は長くて1時間。しかし、俺がどれだけ挑んでもあいつの中の無限の空間に誘い込まれる。全力でぶち込んだスクリュードライバーに手ごたえがまったく感じられなかったんだ』


『だが、香織ちゃんを相手するのはお前しかいないんじゃないか?』

『…………』


『僕が助けられることは、たぶん、ない』

『…………』


『僕は桐子さんをサポートしなければならない。お前ももう少し、頑張ってみろ』

『……わかった』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る