幕間:幼馴染がバレンタインデーに本気になった件

【平行世界編】幼馴染が本気になってしまったーっ!

「えっ? これ……あたしに?」


 ドキドキして波夫を見た。


「ああ、本気だ。今まですまなかった。受け取ってくれ!」


 波夫は真剣な目で私を見つめた。


 そうだった、今日は3月14日、ホワイトデー。あたしは今年もきっと玉砕すると思いつつもダメ元で波夫にチョコをあげたのだ。


 波夫とは幼馴染。そしてあたしが一方的にぞっこんだった。ここ数年、バレンタインデーには頑張って手作りチョコを作り、挑んできたが、「ああ、サンキュー」と言って義理チョコ扱いされてきた。当然ホワイトデーのお返しもなかった。



 ところが、今年、奇跡が起きた。



 波夫があたしの気持ちを受け止めてくれたのだ。


 あたしは興奮したまま、次の言葉を聞いてしまった。



「真乃実、俺とつきあってくれ!」



 あらためて自分の名前で呼ばれ、顔から火が出そうだった。


 苦節17年、あたしに彼氏ができるのだ。それも、これまでずっと追い続けていた最愛の人。




 信じられるわけがない!



 こんなに簡単に!!!





 今年のチョコレートは、これまでと比べ、不出来だったと今さらながらに思う。そんな私が彼に簡単に受け入れられるわけがないのだ! 


「波夫、あ、あのね、あたし、次のバレンタインデーにはきちんと、本気で気持ちを伝えるからねっ!」



 そう言ってあたしは逃げ帰るようにその場を去った。






 翌日、あたしは家族の反対を押し切り、ガーナへと旅立った。


 もちろん、本気のバレンタインチョコを波夫に届けるためだ。


 リミットまであと11ヶ月しかない。それまでに最高のチョコを作り、波夫に渡さなければ……



 コトカ国際空港に降り立ったあたしは、さっそく本場のチョコレートを探す。最終的には手作りチョコでその最強のチョコに打ち勝つことが目的なのだが、まずは敵を知ることから始めなければ、と思ったのだ。


 ただ、非常に残念なことに、あたしは味オンチである。いくつかチョコレートを味見したが、いったいどれが最強のチョコレートなのか、わからない。


 ガーナは英語が通じるのであたしの英検4級レベルの英語でチョコレート売り場のお姉さんに挑むと、なんと、最強のチョコはここにはない、と言うではないか!


 くわしく聞いたところ、首都アクラは人が多いものの、本当に美味なるものはそれほどないらしい。だから、最強のチョコはここにはないのだとか……


 いずれにせよ、戦略を練り直さなければならなくなった私は、ユースホステルに向かい、仕切り直すことにした。


 多くの旅行者が集まるこのユースホステルで聞き耳を立てていたところ、どうやら最強のチョコを求める冒険者がかなりの数集まっていることに気づいた。ほとんどが女性だが、たまに男性もちらほら見かける。みんな考えることは一緒なのね。


 時間のないあたしは、あるグループのボス格の女性に尋ねてみた。あたしの語学力がつたないせいか、なんとなくの会話だが、この町から東に行ったところに住む魔女が最強のチョコをこの町からすべて奪い去ったらしい、と言うではないか!


 あたしは怒りに打ち震えたが、ここのメンバーは魔女が怖くて手が出せないようだ。あたしはおrayの代わりに日本から持ってきたチョコレートをそのメンバーたちに配ると、すぐに東に向かった。そのメンバーたちはなぜかあたしのお土産を絶賛していた。


 波夫への気持ちを胸に抱きながらあたしが道を歩いてしばらく行くと、ついに魔女が住んでいそうな小屋を見つけた。軒にカカオが干してある。そして、中から手にカカオを持って外に出てきたおばあさん、一見、人の良さそうな顔をしているが、魔女に違いない!


「こんにちは、あなたは魔女ですか?」


 わたしは英語で問いかけてみた。魔女ってwatchだよね? あたしだってそれぐらいわかる。舐めるな!


 おばあさんは、あたしに正体を言い当てられたせいか、少しびっくりした表情を浮かべたが、すぐに落ち着きを取り戻すと、否定した。こりゃどう考えても黒だわ!


 とはいえ、あたしだって無益な争いは望んでいない。と日本語交じりの英語で言ってみた。


 彼女はどうやら、納得いかないようだ。


 ちょっとこちらからの要求が高すぎたか?


 私は、日本から持ってきたチョコレートを取り出すと、魔女に手渡し食べさせてみた。


 彼女はチョコを口に入れ、目を丸くすると、何かを語り始める。


 私がなんとなく意訳してみると、この魔女、チョコレートには目が無いようで、奪ったチョコはすべて食べてしまったらしい。


 そのかわり、別の情報を教えてくれた。なんと、この近くにフランス人のパティシエがチョコレートの工房を作っているとのこと。それだ!


 おいしいチョコレートにありつきたい欲求を胸に抱きながらあたしが道を歩いてしばらく行くと、ケープコーストに辿り着いた。


 チョコレートの工房は……っと、ここか?


 玄関のドアを叩くと、中から非常に濃い男性があらわれた。


「すみません、ここがチョコレート工房ですか?」


 相変わらず日本語交じりの英語で尋ねてみると


「ああ、魔女のばあさんから話は聞いているよ、最強のチョコレートを作りたいんだろ? とりあえず中に入ってくれ」


 と言われた。名前はわからないが、悪い人ではなさそうだ。私は勝手に彼のことを「ジネディーヌ・剛志」と命名した。

 注:ジネディーヌ・ジダンさんとも内藤剛志さんとも特に関係はありません。


 中に入ると、濃厚なカカオマスの香りが漂い、卒倒しそうになる。


「俺はここで、最強のチョコレートを日々研究している。是非味見してくれ」


 そう言われた気がしたあたしは、お店にあったチョコレートケーキを味見してみる。うん、おいしい!


「そしてこれが俺の開発したカカオマスで作った生チョコレートで……」


 そう言われた気がしたあたしは、お店にあったチョコレートムースを味見してみる。うん、おいしい!


「そしてこれが俺の最高の技術を……」


 そう言われた気がしたあたしは、お店にあったホットチョコレートを味見してみる。うん、おいしい!


 あれ? なにやらジネディーヌが血相を変えて怒り出したぞ? まあ待て待て、話せばわかる、話せば。はい、日本からのお土産!


 そう言ってあたしが彼の口にお土産を入れると、彼は目を輝かせ、あたしをとっておきの奥の間に連れて行ってくれた。そこにはチョコレートアートの工房で、生暖かく溶けたチョコレートが大量に準備されている。


「これを……あたしに?」


「ああ、これは君にこそふさわしい」


 そういった会話がなされたと思ったあたしは、服を脱ぐと、全身にチョコレートを塗る。もちろんそれは


「食べて、あたしを」


 のセリフのためだ。そうだ、あたしが探していたのはこれだったのだ!


 準備のできたあたしはさっそくジネディーヌの御膳となる。ドキドキ!


 彼はチョコレート色にやわらかくコーティングされたあたしをゆっくりと舐めまわし、堪能し、あたしとチョコレートとともに一つとなる。


 あたしはとろけるような快楽に包まれながら昇天すると、彼とともに人生を歩む事を決意した。

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