ケイside

第16話 戦争――引き籠りによる籠城戦

「どうしてこんなことになってしまったんだ……」


 衣笠きぬがさ鉄人てつとは、パソコンで外界の状況を確認していたが、どの情報も絶望的なものであった。


 自分が自宅の部屋に引き籠っている間に、世界は女性軍に占拠されていたのだ。


 男性は見つかり次第捕獲され、リンチされ、殺害されるらしい。現在地球上に生存する男は、自分を入れておそらく100人も残っていないだろう。


 なぜ鉄人がそう思ったのか? なぜなら彼は、引き籠ることにかけてはそれなりの自負があったからだ。「自分以上の引き籠りは、そうそういない」と。


 食料はあと3年戦えるだけの備蓄があり、太陽光パネルによる自家発電システムが生み出すエネルギーは優に消費電力を上回る。さすがにガスは自前で、というわけにはいかなかったが、元々使用していなかった。


 しかし、敵に外部から攻撃される、ということになれば話は別だ。彼が住んでいるのは砦でも城でもなく、ただの住宅地の中の戸建てである。


 かといって、バリケードを張ったところで多勢に無勢。何の意味もない。そもそも味方がいない。ずっと一人暮らしぼっちなのだから。


「敵に見つからないよう、気配を消して生き延びるしかない……」


 そう思ったのは当然だった。


 だから、彼は息をひそめた。


 ネットに流れる情報にも飛びつかなかった。全力でROMった。


 そのうちIPアドレスから住所を割り出されることを懸念し、ネットも遮断した。



 ひたすら妄想の中に生きた。




 ここまでしながら生存する意義があるのか自問自答する中、彼は生き長らえた






 死の恐怖に怯えながら






 ギィーッ!!






 物音がするたび、心臓が止まる思い






 社会に触れることが苦しくて、自分は引き籠っていたはずだった






 そもそも、俺は、なんのために生まれてきたんだ?





 考えてはいけない疑問が頭をよぎった






 俺は、明日も生きているのだろうか?






 味気ない食事をとりながら、一人思った






 神はいるのだろうか?






 そんなことも考えた






 神はいなかった






 翌日、鉄人は凶悪な連中に見つかってしまったのだ。






 目が覚めた鉄人は、自分が部屋の中で縄で縛られていることに気づく。


 両腕両足はそれぞれ手首足首で縛られ、身体が仰向けになるようにベッドに固定されていた。


 そして、目の前には二人の少女と一人のようじょがいた。



「最近の……通信記録……見つからない」


 鉄人のパソコンを操作していたようじょが言った。


「そうかー、涼音が特定できないんじゃ、こいつを足掛かりにするのは難しそうね」


 少女のうち、背の低い子が答えた。


 もう一人の美少女は……鉄人が目を覚ましたことに気がついていた。


「衣笠鉄人さん、かしら? 他にお知り合いの男性はこのあたりにいらっしゃる?」


 耳元からウィスパーヴォイスでそうささやかれ、銃口を胸に突きつけられた鉄人は涙を流して首を横に振った。


「そう……残念ね」


 そう言って少女は銃の撃鉄ハンマーを起こした。


「ヒッ! ヒィイイイイイッ!!」


 鉄人が震え、失禁する。



 カチャッ




 少女にトリガーを引かれたが、鉄人は生きていた。



「かすみんも相変わらず趣味悪いねー。玲ちゃんっちゃってから、ちょっと狂気じみてない?」


 もう一人の背の低い少女がそう言いながら、カバンから包丁を取り出した。


「あら、そうかしら?」


 持った拳銃を床に置きながら背の高い少女がそう言うと、彼女は、自分の紺のハイソックスを片方脱いだ。ようじょはこちらを見ずにパソコンでゲームをしている。


「これで、どうかしらね?」


 脱いだハイソックスを手にした少女に、鉄人は目隠しをされた。


 迫りくる狂気と女性特有の臭いに、鉄人は気がおかしくなりそうだった。


「やっぱり、これするの?」


 暗闇の中で、背の低い少女の声が聞こえた。包丁を背の高い少女に手渡したようだ。


「どこからにしましょうかね……」



 縛られた自分の左手の指先、その中指の爪の間がターゲットになっていることに、鉄人はすぐに気づかされた。



「ぎゃああああああっ!!!」

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