カケルside

第10話 調査

 香織ちゃんが眠りにつくと、俺は行動を開始した。


 本当に「エレクチオンの塔」の手掛かりがあるのかを確かめるために……




――6時間ほど前


「あれ? 香織ちゃん?」

「あ~ まのみん!」


 中学校からの帰り道、声をかけてきた相手を見ると、かわいらしい少女だった。しかし、なんとなく懐かしさを感じさせる気配を持っている。


「ひょっとして、香織ちゃんの彼氏さん?」

「うん、そうなの~」


『初めまして、伊豆田カケルと言います』


「はじめまして! まのみんです」


 栗色の長い髪の毛を持つその少女は、にこやかに微笑んだ。




「まのみんもここでお買い物~?」

「うん。あたらしいストッキング、買おうと思って。香織ちゃんも?」


「うん。私もまのみんみたいになりたいな、と思って~」

「えー、香織ちゃん、私なんかより全然かわいいじゃん!」


「そんなことないよ~! というか、まのみん、おにいちゃんと付き合わないの? 私、まのみんがお姉ちゃんになってくれるの、楽しみにしてるんだけど」


「え? あ、いや……実は……」


「ん? どしたの?」


「波夫のこと、振っちゃったんだよね……」

「え~! そうなの? あんだけ仲良かったのに~」


「あいつ、実はあれでなかなかガードが固くってさ……そうこうしているうちに、私に好きな人ができちゃって……」


「あちゃ~っ!!」


 波夫さんとこの少女が? ありえない、と聞いていた俺は思った。


「ところで、香織ちゃん、どんなストッキングがいいの?」


「実はそのあたり、まのみんに聞きたかったんだ。私と桐子おねえちゃんのなんだけど、どんなのがいいと思う~?」


「そうね……」



 という二人の会話を聞きながら、店内を見回していると


(カケルさん、お願いがあります)


 と俺の脳内に語りかける声が聞こえてきた。


『え? まのみんさん、ですか? 目の前の』

(はい、そうです)


 なんとこの少女は、香織ちゃんと女子トークを繰り広げながらも、同時に俺にテレパシーを飛ばしてきたのだ。


 この人は、もしや……


(実は「エレクチオンの塔」について、情報が欲しいのです)


『「エレクチオンの塔」って、あの?』


(はい。次元移動装置の、あの塔です)


 そのキーワードで俺は思い出した。断片的にだが、その「次元移動装置」と俺たちは、切っても切り離せない関係を持っていたはずなのだ。


(今は全てを思い出す必要はありません。ただ、その存在を確かめてほしいのです)


『わかりました。ところでまのみんさん、それはどこにあるのですか?』


(おそらく、今晩、波夫の部屋に行けば、わかると思います)


『なるほど……』




 ――そして俺は、波夫さんの部屋に辿り着いた。


 手掛かりも何も……


 暗闇の中、ベールに包まれてそそり立つ塔らしきものが、眼前に広がっていた。


 いや、まだわからない。あの塔のところまで行ってみるか。



 こうして俺は神秘のベールの中に入り込み、しげみの中をかき分け、塔の元へと辿り着いたのだった。



 これは……確かに……古代の……塔


 そして、この塔内部はあたかも活火山のようにマグマを脈々とたぎらせ、今にも何かを噴出しそうな雰囲気を醸し出している。


 これが俺の、そしてまのみんの求めていた塔であることに、疑いはなかった。


 茂みをかき分け、塔のエネルギーの元に向かう。


 

 そこは、聖地だった。


 俺の中に、力が流れ込んでくる。


 俺はマグマの根源に何があるのか、そっと聞き耳を立てた。そして、俺に残された異能を使い、この塔の機能を特定しようとした。


 ――なるほど、この塔には大きく分けて二つの機能があるのか……

 

   な、なにっ! スペルマティックピドルエレクチオーンだとっ?


   古代人にこれほどの技術力があったとは……驚きだ……



 その時だった、上空からベールが引きはがされたのは。



「カケルさん……なんでこんなところにいらっしゃるんですか?」


 裸に黒ストッキングをまとった桐子さんが、驚愕した顔でこちらを見ていた。

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