第3話 お見合いセッティング

 翌日の朝、私はすっきりと目覚めた。


 夜更けにムラムラとしていろいろとあった気がしたが、記憶から消し去ることにした。あれはどう考えても波夫が悪いわけで……


「おねえちゃん、おはよ~」

「香織、おはよう!」


 そう言って二人で朝食を取る。

 トーストとゆで卵とサラダとミルクだけの朝食。


 香織は朝からぼーっとしているが、どうやら昨晩のことは覚えていないようだ。もちろん私も覚えてはいないが……


 波夫の朝食をだだっ広いテーブルに置いたまま、食器を片付けると、私はケイさんを学校に連れて行くことを決め、家を出た。



 学校までの道を歩きながら、ケイさんと話していると、昨日運命的な出会いがあった場所にさしかかる。その話をケイさんにしようとした時だった。


『あっ!』


 ケイさんの声にびっくりした私が前を見ると、なんと、行き倒れのウミウシさんがいるではないか!


『あれはカケルじゃないか! 僕の弟だ!』


 私が思わず駆け寄ろうとしたとき、ケイさんが言った。

 それならなおさら助けなきゃ!


「大丈夫ですか? お気を確かに!」


 私はカケルさんを抱きかかえると、どうやらまだ生きているみたい。しっかり、えら呼吸していた。


『桐子さん、ありがとう。あとは僕が処置します』


 ケイさんはそう言ってカケルさんの救命措置に入った。


『よしっ! あとは経口インスパイアブルを投与後、ジャンスカチアブルのキンダスタンナブルで完了だ!』


 正直なところ、なにがなんで完了なのかはわからなかったが、二人を肩にのせたまま学校まで来た。


 校門に入るとき、さすがにイケメン二人を肩にのせておくのは目立つので、ケイさんとカケルさんにはポケットの中に隠れてもらう。




 授業中、私はケイさんとカケルさんの会話をそれとなく聞いていた。


『カケル、お前昨日どうしたんだ? いったい何があった?』

『それが……実はほとんど覚えていないんだ』


『いや、確かに俺ら記憶力とかほとんどないけど、さすがに昨日のことを忘れるとか、ないだろ普通』

『なんか、ゲーセンとか行った気がする』


『ゲーセン? 金も持ってないのにか? そもそもお前、操作とかできないじゃん』

『ていうか、兄貴こそなにがあったんだ? こんなカワイイ子見つけて』


『そりゃ僕は生まれつきのリア充だからな。お前と違って』

『いやいや、確かに俺はどちらかと言えばネタキャラだが、兄貴だって女性遍歴とかないじゃん』


 見た目はあんなに大人びてるのに、会話はクラスの男子みたいで、なんかかわいい。

 そう思った時、私の頭に、何かが閃いた。




「おねえちゃん、おかえり~」


 ケイさんとカケルさんを連れて買い物を済ませ、家に着くと、先に香織が帰っていた。


「香織、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「えっ? なあに~?」


「あのね、実は私に彼氏ができたの」

「えっ? ほんとに?」


「うん。それでね、その彼氏さんに弟さんがいるんだけど、香織にどうかな? と思って、連れてきちゃった」


「え? どゆこと~?」


『あれ? ここで僕ですか? は、はじめまして、行き倒れの伊豆田カケルです』


 その瞬間、二人の間の時間が止まった気がした。


「こっ、こここっ、ここここっ、こここここっ、んにちわ~」


『どっ、どもでっす~』


 初心な二人を見ると、なんとも微笑ましかった。


 それからケイさんも交えて四人で話す。


『え? 香織ちゃんってユーチューバーなの?』

「そうなの。実はうちの稼ぎ頭で、家計をまかなってくれてるの」


 ケイさんがネタにしっかりと食いついてくれた。


「いやいや、そんなたいしたことないよ~」

『すみません、ユーチューバーってなんですか?』


 おっと、若い二人もいい感じだ。香織はタブレットを持ってきてカケルさんに説明している。カケルさんも興味深そうにそれを見て笑ってる。


 その時


「ただいま~」


 玄関から波夫の声が聞こえた。

 私はケイさんにポケットに隠れてもらい、迎えに出た。


 昨日のことを謝りつつ、香織のことを応援してもらうために。

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