第3話 エレクチオンの塔
相も変わらず俺は、裸に靴下だけの姿で右手首と右足首、左手首と左足首を縛られ、ベッドの上であおむけに固定されていた。
もちろんそそり立ったままだ。
そんな俺に真乃実は堂々と近づいてきた。
「磯貝さんの言う通り、波夫はスタミナの継承者よ。伝承法を使って能力と記憶を継承している」
「ってことは、俺は七海雄を倒さなければならないのか? というかこんな状況だと倒されるのは確実に俺の方だが」
ところが、真乃実は悲しそうな目で首を振って言った。
「倒されるとすれば、それはまず、私なの」
えっ? 真乃実、どういうことだ?
「それは、私が古代人だから」
「古代人?」
「そう。人間なんかより長寿で、昔、この世界を統治していた古代人。『同化の法』で『隠 真乃実』の身体に転生しているの」
「……それで?」
「実は七海雄も元々は古代人だったのよ」
全然意味がわからない……
「最初から説明するね。私たち古代人は、その長寿のせいで、事故にあったりモンスターたちに襲われることを極端に怖がっていたの。戦うことが嫌いだったから、自らは手を汚さず、現代人にモンスターを退治させたり、働かせたりしていたのね」
お前、実は嫌なやつだったんだな……
「だけど、そんな古代人の中に、モンスターを駆逐して平穏な世界にすることを志した勇気ある者が7人いたの。それが後の七海雄なの」
一匹ふんづけちゃいましたが……
「彼らはモンスターに対抗する研究の末、同化の法の強化に成功し、イソギンチャクやウミウシの力を手に入れることができた」
強いのか? それ、本当に強いのか?
「七海雄は本当の英雄だった。私たちをモンスター達から守ってくれた。だけど、彼らの力は大きくなりすぎちゃったの。そして、モンスターとの戦いが終わると、その力は私たち古代人の方に向かい始めた……」
どう考えても古代人の方が嫌なやつだしな。
「だから私たちは彼らの記憶を消去し、追放した。実験中だった次元移動装置を使って、どことも知れぬ異次元へ追い払ったのよ」
ひでえ……
「私もつらかったの。だから、その責任を感じて、私だけはこの世界に残った。七海雄たちがいつか帰ってくると思ったから」
え?
「そして、今から300年前、七海雄たちは帰ってきた」
…………
「数千年の時を得て、彼らは異次元から戻って来てくれた。だけどその時の彼らは7匹のモンスターでしかなかったの。そしてこの地で現代人を大量虐殺したの」
そうだったの?
「七海雄を追放した私たちは彼らに殺されても仕方ないわ。だけど、現代人に罪はなかった。彼らには身を守る権利があると思った。だから、私はその手段として伝承法をあなたの先祖のスタミナに教えたの」
伝承法って、それでどうやって身を守るんだ?
「力のない現代人でも、能力と記憶を継承できれば、いずれ七海雄に打ち勝つことができるはず、そう考えたのよ。ところが私の予想は大きくはずれてしまった。スタミナが強すぎて、隆二さん以外の七海雄を一人ですべて倒してしまった」
それ、隆二さん以外の七海雄が弱かっただけじゃ……
っていうか、伝承法意味なかったな。
『私も思い出しました。その時、みんなの本体を守るために海に行ったことを』
隆二さんが言ったが、どういうことだ?
その疑問に隆一さんが答える。
『我々七海雄の本体は海にあるのです。だから、我々が倒されても本体が残っている限り、永い眠りを経て力を蓄えれば復活することができます』
『そのため我々七海雄には、他の六名が倒され、一名だけ残ってしまった場合、他の者が復活するまでその者の本体を守り続けなければならないという「血の誓い」が交わされているのです』
ケイさんが補足してくれた。
つまり隆二さんはみんなを守りにスタミナと戦わずに海に行ったということ?
『そうです。長きにわたり、海でイソギンチャク属とウミウシ属のお世話になった私は、過去のしがらみに縛られることの愚かさを悟り、我々の記憶を一部消してもらうと、彼らが上陸するための足場を確保する、先発隊を務めることになったのでした』
そういうことだったんだ。
あれ? それって他の六名が隆二さんの足を引っ張ってるだけじゃないのか?
『そうだ! 俺たちはスタミナに殺されたっ!』
カケルさんが怒りの目を俺に向けた。
ってか、逆切れかよ! なんでお前はそれだけは覚えてるんだよ!
まずい、なんとかしなければ!
「あのさ真乃実、こんな恰好で聞くのもなんなんだけど、お前以外の古代人はどこに行ったんだ?」
「彼らは、七海雄たちの復讐を恐れて、異世界に行ったわ。完成した次元移動装置『エレクチオンの塔』を使って」
「そのエレクチオンの塔っていうのは、やっぱり俺のこれのことなのか?」
「うん」
「それって、いつ頃気がついた?」
「前から、ひょっとして、とは思っていたけれど、今さっき、ここでの話を聞いて、そして実際に見て確信したの」
「…………」
「私が『同化の法』を使ってこの『隠 真乃実』の体に切り替わった後、この10年くらいかな、ずっと疑いは持っていたけれど、私の力だけではこの塔に近づけなかった。このままだと謎は永遠に解明できないと思ったから、悪いとは思ったんだけど、ここ数日、隆一さん、隆二さん、そして伊豆田兄弟の情報からあなたの塔のことをこっそり分析していたの」
「…………」
「もしもっと早く気づいていたら、戦争が起こる前に彼らを異次元に運ぶことができていたかもしれない」
「いやいや、戦争は起きてしまったから仕方がないんだが、今の七海雄はまだ復讐したいと思ってるのか? 隆一さんたちはどう思ってるよ」
『私にはすでに復讐しようという意志はありません。できればこのままここで真乃実と暮らしたい』
『私も京子とここに居られたらいいと考えています』
『僕も桐子さんと』
『俺も香織ちゃんと』
「じゃあ、特に彼らを異次元につれて行く必要はないし、真乃実も死ぬ必要はないんじゃねーか? それでいいじゃないか」
「波夫……あなたがそう言ってくれるなんて……」
「おいおい、泣くなよ」
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