第14話 そして男が全員……あれ?

 翌日学校に到着すると、女子しかいなかった。


 昨日で男性軍はほぼ壊滅したし、仮に男子生徒が生きていたとしても学校になんか来れないわよね……



 来れないわよね……



 いったいなんなのよ! この目の前の不審者はっ!


 なぜここに男がいるのよ!



「磯貝さん、ちょっと……」


 私が声の方を振り向くと、隠さんだった。


「あのね、お願いがあるの。波夫を逃がしてあげたいの。協力してもらえないかな?」


「えっ? あ、確かに磯野くんっぽい。なんかお尻がふくらんじゃってるけど……」


 隠さんと二人で不審人物に近づく。


「波夫、ちょっと」


 隠さんに呼ばれて振り返ったその男は、やはり磯野くんだった。




 先生のいないホームルームの時間に、磯野くんを廊下に呼び出すと、隠さんが磯野くんに言った。


「危険だから、人に見つからないように自宅に戻って」


「どういうことだ?」


「男と女の戦いが始まったの」

「え?」


 磯野、知らないの?


「磯野くん、今朝のニュース見てないの?」

「うん」


「女性軍が先手を打って、男性軍を攻撃したの。男性軍は大打撃を受け、ほぼ壊滅状態よ」


「軍……って、なんだよ?」


 本当に知らないのかしら?


 隠さんが意を決したように言った。


「波夫、あのね、隆一さん、隆二さんたちに特殊な能力があることは知ってるわよね?」


「え? あ、ああ……」


 ん? それは知っているのね。


「彼らは全員での意思疎通が可能なの」

「は?」


「わかりやすく言えば、今、波夫がおむつを穿いていることもみんな知ってるの」


「なん……だと……?」


 それは周りから見ていてもなんとなくわかるわよ。


「詳しく説明する時間がないの。急いで自宅に戻って待機して。でないと、殺されるわよ」


「……わ、わかった。帰るよ」


 私たちはなんとか磯野くんを自宅に返すことに成功したのだった。



「ところで隠さん、私に教えてもらえないかしら?」

「え、えっと、何から話せばいいかな?」


「そうね。とりあえず、磯野くんをかくまう理由からかしらね」

「ああ、まあ幼馴染だからね~」


 そう言いながらも隠さんは何か隠していそうだ。


「隆一さんと隆二くんは七海雄しちかいゆうなのよね?」

「ええ、そうみたいね」


 その時


『真乃実、磯貝さんには知っておいてもらうべきじゃないのか?』


 隠さんの肩に隆一さんが出てきて言った。


「そ、そうね……磯貝さん、実はね、あたし『エレクチオンの塔』を探しているの」


「は? なにそれ」


「七海雄が海から来たことは知っているよね?」

「ええ、まあ」


「隆一や隆二くんが、一部記憶を消されていることも」

「うん、聞いた」


「じゃあ『伝承法』は?」

「ううん、知らない。先祖が子孫に何かを残すってイメージかしら?」


「『同化の法』については?」


「隆一さんも隆二くんも長生きするんでしょ? それでも肉体は滅びちゃうから、魂を他の肉体に徐々になじませて転生するのが『同化の法』じゃなかったっけ?」


「そうなの。でね、その『同化の法』の手掛かりが『エレクチオンの塔』にあるらしいの」


「ふうん」


「あたしも隆一のためにずっと調べていたんだけど、ひょっとすると波夫に手掛かりがあるかもしれないの」


「え? あの不審者がキーマンなの?」


「残念ながら、そうみたい。隆二くんたちのためにも、その手掛かりを見つけてもらえないかな?」


「そりゃ手伝いたいのはやまやまだけど、どうすればいいのかしら?」


「波夫を見張ってほしいの。そしてもし彼が、誰かに攻撃されそうになったら、助けてあげてほしいの」


「え……それ、ちょっと危険じゃない?」


『大丈夫だよ』


「隆二くん?」


『僕がついているから、大丈夫だよ。その手掛かりが見つかれば、失われた記憶を取り戻すことができるかもしれないしね』


「そ、そうね。わかったわ。やってみる」

「あ、あとね……」


「ん、なに?」


 私は隠さんに恥じらうように言われた。


「磯貝さん……あたしのこと、好きでしょ?」


「えっ?」



 ――「悪魔の接吻」に続く

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