第9話 イソギンチャクのジャスティス
話は3時間前にさかのぼる。
私がお父さん、お母さんとご飯をもりもり食べていた時だ。
テレポートした隆二は学校の体育倉庫にいた。
そこには山口幸一の死体が転がっていた。
その屍は、体中の穴という穴から様々なものが噴き出ていた。
『やはりやつらの仕業か……』
そう特定した隆二は、隆一に連絡を取った。
「隆二か? そっちはどうだ?」
『無残な状況だった。すでに息絶えている。オウガは間違いなく、黒だ』
「わかった。俺はフグタを
『了解!』
続いて隆二は、イソギンネットワークにアクセスし、ターゲット捕獲用の罠を張る。
『来訪者特定、コードE-6753UX、これより包囲網を敷き、追い込みを開始したい』
「オーダー受付完了。1時間後に査定結果及びミッションを受領してください」
隆二は、山口の遺体に一礼すると、その場から姿を消した。
***
私が宿題をほぼ終わらせたころ、隆二くんに連絡が入った。
「査定結果、出ました。物証鑑定完了。ターゲット:オウガ、HJ64385地点からHF94274地点に向かって逃走中。ミッションスタート、1時間以内にターゲットを沈黙させてください」
『…………』
隆二くんがどういった状況で何をしようとしているのか、私にはわからなかった。だけど、私が関与できるような状況でもなさそうだったから、何も聞かなかった。
しばらくしてお風呂に入るため、部屋を出ようとしたときだった。
『京子、ちょっと出かけてくる』
「え? 用事?」
『ああ。すぐ戻ってくるから』
「そう、わかった」
***
隆二はオウガを追い詰めていた。
「くそっ、こんなところまで追ってきやがるとはっ!」
忌々しそうにオウガが口走る。
『なぜ山口幸一に手を出した』
隆二が槍を構えて言った。
「別に俺から手を出したわけじゃない。あいつから来たんだ。手籠めにされにな!」
オウガが悪びれもせずに言いはなった。
『すべて、貴様のルールかっ!』
その言葉に隆二の怒りがあらわれていた。
「おおっと、お前もそんなことを言っているが、それが偽善だってこと、わかってるんだろ?」
『偽善でも、悪でないより、マシだ!』
「そんなこと、何を根拠に言えるんだ? お前、記憶がないんだろ?」
『なぜ……それを?』
「当たり前じゃないか。この世界に飛ばされる以上、不要な記憶は消される。お前の行動は元々のプログラムに則った模範行為にすぎないわけだよ。操られているんだ」
『だから、なんだというんだ! 貴様が秩序を乱す行為の言い訳にはならないぞ』
「俺はただ、お前に忠告してやってるだけだ。お前だって、何かがおかしいって薄々気がついているんだろ?」
『…………』
隆二の思考が途切れた瞬間、巨漢のオウガがその体躯からは想像できないスピードで間合いを詰めていた。
「甘いなぁー坊やぁっ!」
上から叩きつけられたスレッジハンマーの一撃が、隆二をぺしゃんこに潰した。
かに見えた。
『申し訳ないが、僕はまだ死ぬわけにはいかないんだ』
「なにっ?」
声に振り向いたオウガの左肩に、後ろから隆二の槍が深々と突き刺さっていた。
「ぐううっ!」
オウガはたまらずハンマーを落とし、その右手で隆二の槍を掴もうとしたが、隆二はそれより速く槍を抜き、頭上で回転させると、再びオウガの視界から消えた。
「どこだっ! どこに隠れたっ!」
『無毛三段!!』
互いの言葉が交差する中、隆二の槍は死角からオウガの背中を突き、そのまま上に向かって切り裂くと、最後にオウガの毛髪をハゲ散らかした。
「ぐぅああああっ!!」
断末魔の叫びをあげながら、オウガは脱毛し、絶命した。
『ミッションコンプリート』
瞬時に息を整えた隆二は槍をしまいこみ、イソギンネットワークに報告すると、山口幸一の無念さを自らの心にしまい込み、その場から姿を消した。
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