第6話 磯野くんとの会話

 放課後に磯野くんが隠さんに見つからないように近づいてきた。

 磯野くんって、なぜか行動が妙に目立つ、というか、不審なのよね。。。


 しょうがない、助けてやるか。


「今日隠さんが掃除当番だから私の家に来て話さない?」


「え? いいの?」

「全然かまわないわ」


 そんなわけで三人で帰宅することに。

 予想通り磯野くんが私に話を振ってくる。


「真乃実から紹介されたってことは、付き合い始めたのって昨日から?」

「そうね。山口くんには申し訳ないんだけど、運命の出会いを感じてしまったの」


 山口くんという言葉をあえて使った私は、スカートの上からお尻を押さえる。


「付き合って1日たってみて、どう?」

「うーん……どんどん好きになる感じ、かな?」


 考えるより先に言葉が出てしまった。なんだろう、この幸福感。


「ちょっと立ち入ったことだと思うんだけど、お二人は同棲してるんだよね?」

「ま、まあそういうことになるわね……」


 言われてみれば、そうだった……


「じゃあご両親に会ったとしたら、隆二さんのことは内緒の方が良いのかな?」

「そ、そうね……できればそれでお願いしたいわ」


 そう答えつつも、私はドギマギしてしまった。そうだ、まだ親には言えないよ……


『もちろん私の方からはいつでもご挨拶したいと思っているのですが、タイミング的にはもう少し後の方が良いかと思っております』


 隆二さんが優しく大便してくれた。


 確かに私たちが結婚とか考えるのはまだ、早すぎると思う。むしろ、ちょっとずつ二人の距離感を縮めるこの期間をまだまだ楽しみたい。


 一方で気になることがある。

 磯野くんは私の性癖を知っているのだろうか?


 幸一は自分のことを他言しないでくれ、と言ったけど、まさか私のことを磯野くんにしゃべったりしてないよね? 


 冷静になって思い返してみると、私は幸一との関係が順調だったときは、彼の望むことをしてきたつもりだ。衣装や大人のおもちゃを買う際も、決めるのは私で買うのは幸一。攻めと受けは毎回固定だし、性感帯についての要望は、ほぼ100%幸一が出してきた。


 TENGIRLSのコスプレで攻めてくれって言われたときは私も躊躇したけど、頑張ったさ、幸一のためだもん。むなしかったよー。まさか幸一がほんの数秒で前後不覚に陥るなんて思わなかったから、裸でピクピクしている幸一の背中に足を乗せて爆笑したけど、その後30分間はあいつ一人でずっと向こうの世界に行っちゃってたから、私はむなしかった。


 だから、私はそこまで悪くはないと思うんだ。そりゃ最後は確かにやりすぎた気はするけどさ。


 そんなことを考えているうちに自宅に到着する。そのまま私の部屋に入ってもらったけど、朝ファブリーズで消臭してきた私に死角はなかった。



『我々は元々、地上で生活する能力自体は有していたのです。これまでは海の中で生活することで何の問題もなかった、ただそれだけなのです』


 隆二くんが磯野くんに言った。


「ではなぜ地上に出て来られたのですか?」


『将来的に海に住むことができないことが判明したからです。このままだと人間による海洋汚染のため、あと10年もすれば海のほとんどの生物は死滅することになります。これは我々の仲間の能力によってわかったことですが、未来予知だと思っていただければ良いかと思います』


「ということは、やむなく地上に上がって来られた、ということですか?」

『そうです。その第一陣が我々です』


 ああ、そういうことだったんだ。今朝言ってた、隆二くんと隆一さんが最初で、後発組が来たっていうのは、これに関してのことだったのね。


「あなた方以外の種はいらっしゃいますか?」

『波夫さんがおっしゃられているのはウミウシ属のことですよね?』


「ええ、まあ」

『そうですね。彼らと我々は懇意にしているため、共同戦線を張っています』


「なるほど……」


 ウミウシ属っていうのは、たぶん、桐子さんの彼氏さんの事だと思う。だけど磯野くん、いったいどこまで知ってるのかしら。妙に納得しているところをみると、やはり隠さんや桐子さんからいろいろと聞いているのかしらね。


 そういえば、磯野くんは隆一さんのことで話がしたいって言ってたっけ。

私、邪魔だわね。


「あ、ちょっとお茶持ってくるわね」


 そう言って私は立ち上がって部屋を出た。



 キッチンの冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぎながら考える。


 イソギンチャクとウミウシが共同戦線、ってことで、桐子さんがあの伊豆田カケルさんっていうウミウシさんに、毎晩ヌルヌルヌメヌメされているってことは当然としても、サバサバした感じの桐子さんとの相性のイメージが湧かないんだよね。


 そこまで考えて、ハッと気がついた。


 男いらないじゃん!


 そして、もう一つの疑惑が私の頭をよぎる。


 ――幸一は、遅かれ早かれ私に棄てられることを悟っていたのではないか?

 だからこそ、男だけで生きていく道を選んだ


 なぜなら……彼には自分の適性を発揮して生き残る未来が見えていたから――



 これぞ……男の尊厳



 ……さすがに責任転嫁にもほどがあるよね。何考えてんだか私。




「おまたせー、はい、磯野くん」


 お茶の入ったコップをテーブルに置いた時


「あの……磯貝さん、ちょっと聞きたいんだけど?」

「なあに?」


「俺、今、隆二さんと話していて、とても紳士的ですばらしい方だと思うんだけど、磯貝さんは具体的に隆二さんのどんなところに惹かれたの? 顔? 性格?」


「え? そんな……」


 急にそんなことを聞かれるなんて…… あなたたち、私のいない間にどんな会話してたのよ? まさか、昨日のこの部屋での行為のことを……


『京子、それ、僕も聞きたいな』

「えっ?」


 ニヤニヤしながら隆二くんまで! しかも今、触手が私の腰に伸びてるしっ! 前からも後ろからも……


 あああ……そうだった…… この人、真正のSだったわ……


「ぎゃ、逆に私が聞いてもいいかな? 隆二くん、なんで私のことを選んでくれたの?」


『そりゃ京子が魅力的だからさ』


 ちょっと! 勘弁してよ その返し! いったい私にどうしろっていうの?

今ここでアヘ顔させたいの?


「隆二さん、実は俺も磯貝さんはうちのクラスでもトップの美人だと思ってる。ただ俺が好きだったのは幼馴染の真乃実だったんだけど。でも、隆二さんたちにもそれに近い気持ちがあるのかな? というのも、隆二さんの兄弟が選んだ女子って、やっぱ俺的にもモテる子に思えるんだ」


 待て待て待て! お前が私の精神力を削るな! 貴様は幸一としっぽりやっておけばよいのだっ!


『ああ、そうかもしれませんね。もちろん私にとっては京子が一番でしたが、確かに面食いかもしれません』


 この段階で私のショーツが限界を越えていたのは間違いない。



 実はその後も延々と会話が続いたはずなのだが、正直、あまり記憶がない。


 少なくとも、磯野くんの目の前で記憶が飛んでしまうくらい隆二くんにはずかしめられたことだけは確かだ。


 そして寸止めをくらい続けながらも、いろいろと取り繕いつつ、なんとか磯野くんを見送ったあと、LIFEが0になった私は、自室で気を失った……



 隆二くん、いつか仕返ししてやるからね……

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