第4話 もみもみ

「隆二さん、ごめんなさいね、途中であんなこと言っちゃって」


 学校からの帰り道、私は謝った。


『え? なんですか?』


「私、幸一に『もう付き合ってるの』って断言しちゃったじゃないですか」

『ああ、あれですか。嬉しかったですよ』


「なら……良かったです」


 そう言いながらも、私はドキドキしっぱなしだった。



『ところで、京子さんはこれまで、いろいろと経験されてきたのですか?』

「私ですか? なんというか、説明しにくいのですが……」


『はい』

「一言で言うと、処女だけど、童貞ではない、というか……」


 言葉に出して、しまった! と思った。なに言ってんだ私! 先走りすぎだろ!


『え? 京子さん、男性だったのですか?』


「いえ、女性です、もちろん。なのですが、前の彼氏が、そういうの、興味なかったみたいなんですね」


『あの幸一さんですか?』

「……はい」


『……確かに、そんな気もしました』


「…………」


『自分がされるのは、嫌いですか?』


「いえ、決してそういうわけではないのですが、幸一に合わせていたら、自然とそうなってしまったというか……」


『なるほど』


 おそらく私の顔は真っ赤だったのだろう。



 自分の部屋で二人きりになったところで、隆二さんが言った。


『京子さん、疲れていると思うので、足をマッサージしてあげる』


「えっ!」


『アイマスク、あるかな?』


「あ、はい」


 私は机からアイマスクを取り出すと、隆二さんに従って制服のままベッドに横たわり、アイマスクをかけた。


 暗闇の中、隆二さんのメッセージが響く。


『緊張しなくてもいいよ。ちょっと足を触るだけだから』


 私はお腹で両手を組んで、深呼吸した。


 隆二さんは私の右足のソックスをするすると脱がしていく。


 そして


 親指と人差し指の間を、ねっとりとした少し冷たい感触が襲い、ゾクッとした。



『綺麗な指だね』


 そんな……今日はまだ洗ってないのに……


 そう思いながらも、私の脳は何かに支配されたようにピンク色に染まった。



 ねっとりとした感触は、そのままゆっくりと足の裏を這う。


 ぎりぎりくすぐったくない、絶妙な感覚が心地よい。


 そしてその感覚は、かかとを折り返して……人差し指と中指の間に侵入してきた。


 私はたまらず、靴下を履いたままの左足の指先に力を込める。


 指の股をレロレロされている気がして、気が変になりそうだった。


「あふぅっ」


 思わず変な声をあげていた。


 だが、体をねじることはできなかった。


 まるで麻酔をかけられたかのように、体が動かない。


 不思議と恐怖感はなかった。

 むしろ体が重力から解放されるような、精神が解き放たれたような、脳からつま先までがつながったような不思議な精神世界を揺蕩たゆたっていた。


 足裏の感覚は、薬指と小指の股に差し掛かっていた。

ソックスを履いたままの左足のつま先は、力が入ったまま、震えていた。


 私の右足は、隆二さんに完全に支配された。


 そして……隆二さんはそのまま、左足のソックスを脱がしにかかる。


(だ……だめ……)


 口からそう、言葉が出そうだった。


 だが、私にあらがうすべはなかった。


 まるでイソギンチャクの毒に襲われたかのように、左足から力が抜けていく……


 そして、再び親指と人差し指の股から、何かを解きほぐすかのように、ねっとりと攻めてくる。


(…………)


 右足同様、左足も毒におかされた私は腰にしか力が入らない。

 つま先の神経から腰を経由したその毒によって、私の下半身は隆二さんの意のままに操られ、動かされてしまう。


 体の感覚はすでに、どこがどこなのかが、自分でもわからなくなっていた。



 そして


 





 ぴた




 ふいに首筋を攻められた。


(…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ァッ!!!) 

 


 失禁とともに、私の思考は完全にストップした。






 目が覚めると、そこに隆二さんの笑顔があった。

 私はアイマスクを外した寝顔を隆二さんに見られていたのだ。


 思わず顔をそむける。


「隆二さんがこんなにスケベだとは思わなかった……」

『え? そう?』


 隆二さんは悪びれるそぶりもなく、言った。


「はい…………本当に……いやらしいです……」

『そんなぁ、もみもみしただけなのに』


 そういう隆二さんはきっとにこにこ顔に違いない。

 こういう言葉は使いたくはないが、真正のSだ。


 そして、それこそ、私が求めていたもの……


『気持ちよくなかったですか?』


 あえて敬語で私を責めてくる。


「もみもみって……言うんですか?」

『はい、もみもみです』


「また……やってくれますか?」

『ええ、京子さんが嫌でなければ、何度でも』



 私は超絶に恥ずかしくなり、しばらく隆二さんの顔を見ることができなかった。

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