第3話 予防線を張ってみる

「あの……隠さん……」


 授業終了後、私は声をかけた。


「その……隆二さんとお話……できるかな?」


 カマトトぶるつもりは毛頭ないのだが、なかなか言葉が出てこない。


「うん、大丈夫よ。どうする? 二人きりになりたい?」

「そ、そうね。そうしてもらえるとうれしいかも」


 そう言いながらも、私は極度に緊張していた。




『隠さんから聞いたのですが、磯貝さんは成績も優秀だとか?』

「いえいえ、たいしたことありません……」


 そう答えながら、私は息ができないくらい上がっていた。

 足がガクガク震え、汗が止まらない。


『あの……大丈夫ですか? 磯貝さん』

「あ、ええと……ダメかも……」


『それは大変だ! 保健室に行きましょう』

「え?」


 突然教室の中から隠さんが出てきた。


「磯貝さん、調子悪いの?」

「なっ! なんで知ってるの?」


「隆一さんと隆二さん、テレパシーで通じ合っているから。保健室行った方がいいわよね? 連れてってあげる」


「あ、ありがとう……」


 そんなわけで私は次の授業を休み、保健室のベッドに横になることに。


「微熱あるみたいね。先生が外出するからゆっくり休んでなさいってさ」

「ありがとう、隠さん」


「いえいえ、どういたしまして。隆二さん、磯貝さんのこと、よろしくね!」


『わかりました』





「すみません、突然……」


『いえいえ、でも、いきなり二人きりですね』


「隆二さんは私のこと、どう思ってらっしゃるんですか?」

『実は、一目ぼれしちゃったんです』


「え?」


 体温が1℃くらい上がった気がした。


『昨日、真乃実さんと隆一に教室に連れてきてもらって、あなたの真面目に授業を受ける姿を拝見して、ビビッときたんです。正直、身が縮む思いがしました』


「そ、そうだったんですか……」


 体温がもう1℃上がった気がした。


『そして真乃実さんに相談したんです。だから聞いています。京子さんには既に彼氏さんがいらっしゃるって』


「……はい」


 体温が2℃下がった。


『だけど、あきらめきれなかったんです。だから、真乃実さんに無理言って紹介してもらったんです』


「あ……あの……」


『はい』


「実は、私、その、なんていうか、普通の人と違うっていうか……」

『え?』


「こんなところで初対面の方に話すのもおかしいんですけど、どちらかというと、アブノーマルっていうか……」


『は、はい』


「口で言うのもおかしいですし、よくこんな話をしたり書いたりする人は意外とノーマルだったりするので勘違いされやすいんですけど、私自身は確実にアブノーマルっていうか……性癖がですね……」


『はい』


「ちょっと癖があるかな……と」


『なるほどー、そうなんですね』


「はい……」




『興味があります』


「え?」

『とても興味があります』


「隆二……さん?」

『私も一見真面目そうに見えるらしいのですが、根はスケベですから』


「え?」

『もちろん相手の嫌がることを強要しようとは思わないですけど』


「…………」

『でも、そういったところさえも分かり合うことができたら、素晴らしいですよね』


「そうですね……」


 そう言いながら私の体温は40℃を超えた。


『京子さん、大丈夫ですか?』

「は……はい……大丈夫……です」


『しゃべらないで、ゆっくり休んでください。私は待ちますから』

「…………」


『ここで待っていますから』


 その言葉を聞いた私は、熱にうなされながら夢を見た。

 わりと幸せな夢だった気がする。





「調子はどう?」


 隠さんが様子を見に来てくれ、私は目が覚めた。


「熱は下がったみたいね」

「ありがとう。隆二さんのおかげかも」


『私は何もしてませんよ』


 そういう隆二さんは、やはりイケメンだった。

 私は思い切って言った。


「隆二さん、お願いがあります」


『なんでしょうか?』


「実は私、幸一と別れること、決めていたんです。その後でよろしければ、お付き合いさせてください」


『わかりました』

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