私がイソギンチャクと付き合うことになった件

京子side

第1話 私がイソギンチャクと付き合うことになった件

「ごめん、幸一とはこれ以上付き合えない」


 私はいきなり切り出した。


「幸一は多分、私のことが好きなんじゃなくて、本当は男の子が好きなんだと思う」


 ズバッと言ってしまった。


 そう。私は知っていたの。あなたが私じゃなく、男子にしか目が向いていないことに。


 だって、最近は私がキスをせがんでも気乗りしないようだし、スキンシップも嫌がるし、めっきりうちにも来なくなったし。



「ごめん」


 認めるように幸一が力なくつぶやく。


「いいのよ。しょうがないわ」


 私は教室の窓から遠くを見つめて言った。



 そして、決して口に出すまい、と思っていた言葉を、つい、漏らした。


「幸一、磯野くんのことが好きなんでしょ?」


「なっ! なぜそれを?」


「そりゃ見てたらわかるわよ。でもね、難しいと思う。磯野くん、隠さんに首ったけだから」


「……それは僕もわかってる。京子、ごめん、そのこと磯野には黙っててくれないかな?」


「それはいいけど……さ」


 含みを持たせた言い方をしてしまった。この時はまだ、まさか自分が彼氏を他の男に取られるなどとは心の底では信じたくなかったのだと思う。そういった意味では、私もまだまだ初心うぶだったのだ。


 だけど、幸一が磯野くんの方を向いてしまったのは、私に責任があることは理解していた。ハードな調教に幸一はついてこれなかったのだ。だから女性不信になったとしても不思議ではない。個人的にはあまりSとかMとかの言い方は好きではないけれど、幸一の根っからのM気質に私がヤリすぎてしまった、というのが正直なところだ。


 そして、それは幸一が未だに私から離れられない理由とイコールだった。幸一は、そう、今の幸一は、磯野くんという好きな相手がいて、私から別れを切り出されたシチュエーションでありながらも、それでもなお、


 だから、言うしかなかった。


「実はね、私にも好きな人が、できたの……」


「え……」


「イケメンなの」

「で、でも、それってまだ相手のOKはもらって……」


「実はもう、彼と付き合ってるの」

「うそ……いつの間に……」


「幸一には内緒だったんだけど、相思相愛なの」

「…………」


「実はここに連れてきてるの」

「は?」


「彼なの」


 そう言って私は最愛の彼、隆二さんを紹介した。


「あなたに劣らず、イケメンでしょ」

「…………」


「幸一には、正直、悪いことしたなって、思ってる。いろいろと開発してしまって、普通の女性とのお付き合いができない体にしてしまったのは、おそらく100%私のせい……」


「いや、そこは京子に感謝してるよ」

「えっ?」


「自分に本気で向き合えたのは、京子のおかげだから」

「…………」


「だから、僕、捨てられちゃうんだ、と思うと……」

「いや、そういうわけじゃ」


「ごめん。僕、男なのに、女々しいよな」

「…………」


「何度も言うようだけど、僕、京子にはいろいろと教えてもらって、いろいろと開発してもらって、本当に良かったって思ってる」

「…………」


「そりゃ、確かに最後のスカトロはきつかったよ。あれは今でも無理だ。トラウマになってる。どんぶり一杯食べろだなんて!」

「…………」


「でも、京子には感謝しかないから……」

「……ちょっと幸一、そんなところで泣かないでよ……」

 

 感極まった幸一の涙腺は崩壊していた。


「ごめん。だから京子には幸せになってもらいたいんだ。えっと、隆二さんだっけ? 京子の事、よろしくお願いします」


『こちらこそ、なんかすみません』


 隆二さんの言葉に、幸一は袖で涙をぬぐいながら首を振った。



「じゃあ僕、行くね」


 そう言いながら幸一が教室を出て行く。


 私は、彼の後ろ姿を追うように、閉められたドアを眺めていた。



『良かったんですか? あれで』


 隆二さんがテレパシーで私に聞いた。


「ええ、良かったのよ。これで……」


 そう言って窓を開けると、外からの爽やかな風が私の頬をなでた。

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