第11話 それでも気持ちを奮い立たせて日々に挑む

 いろいろな意味で精神的にへし折られそうだったが、なぜかあそこは折れない俺が教室につくと、やはり今日も担任のフグタ先生がお休み、そして副担任のオウガ先生も不在で、ホームルームが中止らしい。


 結局、全部自分で調査しなきゃならねーのか……


 ちなみに例の彼女に振られたやつらの話によると、やはり昨晩も夢精したらしい。だが、俺ほどひどい目に遭ったやつはいなかったようだ。最近、この朝の情報交換のひと時が楽しみになってきている気がする。


 そんなこんなでいつも通り、一時間目の授業が始まる。隣の席の山口くんは、まだ異世界から戻って来てはいないが、それ以外はなんの変化もない日常……



 だと思っていたよ! お昼までは!



 事件が起きたのは、昼休み終了間際だった。


 俺の中ではクラスでカワイイ子Top3にランク付けされる潮崎さんが、大声で泣きながら教室に入って来たのだ!


 慌てて彼女の席に駆け寄るクラスの女子たちで人だかりができる。


 俺の席からは彼女たちの声は聞き取れないが、どうやら潮崎さんの彼氏さん(おそらくイソギンチャク)が何者かに殺害されたらしい。


 そしてその集まった女子たちの後ろを気まずそうに通り、俺の目の前の席に座る青木くん。


 俺は彼が潮崎さんのことを気にかけていたことを知っていた。


 といっても俺は特段青木くんと親しいわけではない。確かに席は近いが、彼は性格が横暴なのでこれまであまり関わらないようにしていたのだ。彼が潮崎さんに好意を抱いていることを俺が知ったのは、授業中いつも彼女の方ばかり気にしていたから。


 察するに青木くんが潮崎さんの彼氏さん(おそらく隆一さん、隆二さんの兄弟なのだろうが)にちょっかいを出し、つぶしてしまったのではなかろうか?



 そんな冷え切った空気の中、授業が始まる。


 異変に気がついたのは授業開始後10分経過したころだった。


 目の前の青木くんの頭が突然大きく揺れ出したかと思うと、眠りに落ちたのだ。


 これまでも青木くんが授業中に寝ることはよくあったが、ここまでオーバーアクションで寝られると、正直びっくりする。



 俺が気を取り直してそのまま授業を受けようとしたその時だった。


「うわああああああ!!!」


 突然奇声をあげて立ち上がった青木くんにクラス中の目が集まった。


「ヒイイッッ!!」


 青木くんの右隣の神田さんがこれまた奇声を発し、青木くんを避けるように体をねじる。


 その声で我に返った青木くんはあわてて着席する。だがその時、俺を含めた数人は気がついていた。


 居眠りしていた青木くんが夢精したことを……


 そして、彼のズボンがずり落ちていたことを……



 追い打ちをかけるように冷静な塩村先生(女+ウミウシ)が言った。


「青木くん、トイレに行っていてきなさい。臭うから」

「は、はい……」


 力なく答え、ズボンを穿きなおして教室を出て行った彼が、社会的に抹殺された瞬間だった。



 実際、彼の顔には、死相が見えた。





 笑えない



 まったく笑えなかった



 むしろ戦慄した



 こんなテロ行為、許されるのだろうか……

 

 卑劣すぎないか?




 おそらくこれは報復措置なのだろう。誰が仕掛けたのかはわからないが、青木くんが兄弟を殺害したことに対する反撃だったに違いない。昨日、隆一さんが教えてくれた能力で、こんなことができてしまうということを、俺は今、この目の前でまざまざと見せつけられたのだ。


 確かに潮崎さんの彼氏さんの命を奪った青木くんの罪は重いのだろう。

しかし、だからといって、公開処刑はやりすぎじゃないか? 



 こんなことがあっていいのだろうか……



 仮にもし、もしもだ


 俺が今朝、ベッドの上で体験したことが、この教室で発生してしまったら……



 そして

 

 その危険性が身近なところに迫っているという事実……





 興奮にうち震える俺の血液は下半身に回り、予感は現実のものとなる……

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