第16話 戦争―子供たちの戦い

 だが、戦っていたのは、何も大人たちばかりではなかった。


 年端もいかぬ子供たちも『子供たち同士の抗争』に巻き込まれていた。

 そこは大人以上にパワーバランスの崩れた、一方的な殺戮現場だった。


 戦火の中をかろうじて生きのびた雅也少年は、親友の玲少年と南小学校に隠れていた。


「雅也、これからどうする?」

「とりあえず、ここで気配を殺しておこう。水と食料はまだ少しある」


 玲にそう言うと、雅也は一息ついた。


 二人の両親はいつの間にかいなくなっていた。だから学校に来るしかなかったのだ。二人はこの学校のことを良く知っていた。どのあたりが危険で、どのあたりが安全なのか、熟知していた。今いる場所は誰にも見つからない、そういう自信があった。


 雅也はかき集めた食料を角に置き、ペットボトルの飲料水を二本取り出すと、一本玲に手渡した。


 受け取った玲は、蓋を開けて口に少し含みながら、落ち着かない様子で外の状況を確認する。どこまでも広がる綺麗な青空が、自分たちの心を空白にするようだった。


「僕、この戦争が終わったら、まなみんにご飯作ってもらうんだ」


 雅也が玲に言った。


「お前、まだそんな馬鹿なこと言ってるのか! 甘いこと考えていたら、死ぬぞ!」


 玲が血相を変えた。


「約束したんだ。僕がまなみんを守るって」

「…………」


「お前だって霞さんに生きていてほしいと思ってるんじゃないか?」

「…………」


 雅也の言葉に玲は無言だった。その時、二人の耳に、何かが聞こえた。


 …………


 二人が耳を澄ませると、運動場から女の子の声が聞こえた。


「まさやー? まさやー?」


「ま、まなみん?」


 雅也は立ち上がり、その場から飛び出した。


「よ、よせっ! ワナだ!」


 玲があわてて雅也を追いかける。

 しかし、雅也には追いつけなかった。




 運動場の真ん中で、その女の子――真奈美は雅也を呼んでいた。何度も。何度も。


 校舎から足音が近づいてきた。

 そして、一階から走ってくる男の子が見えた。


 雅也だった。


「まなみん……」

 真奈美のところまで走ってきた雅也は、息を切らしながら言った。


「絶対来てくれると思ってた。お家に帰ろ、雅也」


「……うん」


 そう答えて、雅也が真奈美の手を握ろうとしたとき、真奈美が隠し持っていた包丁が雅也の胸を貫いた。


「ま……まな……みん?」

「昔、あたしのことをバカにした罰よ」


 真奈美はニヤリと笑って言った。



 雅也は血を吐き、その場に倒れた。




 その場を目撃した玲のひざは、震えていた。


 幸いなことに真奈美はこちらに気がついていない。

 しかし、足が動かなかった。



 だが、そんなことを気にする必要はなかったのだ。


 校舎にこだまする一発の銃声が、すべてを終わらせた。


「飛び出してくるとは、あなたも甘いわね。玲」


 一撃で獲物を仕留めた霞は、そう言い残すと真奈美の元に向かった。

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