第15話 戦争―きっかけと早すぎた終戦
最初の被害者は、女性だった。
36歳 主婦。夫から刃物で刺され、死亡。二日前にテレビで放映された。
殺害理由は明らかだった。そして、それに対する世論も明らかだった。
世の男は当然のように殺人を犯した夫を支持し、世の女はこれまた当然のように被害者の主婦を支持した。
つまりこの段階で「イソギンチャク、ウミウシ連合」は女性、つまり人類のほぼ半数を完全に掌握していたわけだ。
「イソギンチャク、ウミウシ連合」のネットワークで即座に伝えられた情報を基に、当然のように女性による報復が始まった。
猜疑心にかられた世の女性たちは、一丸となって男性を襲い始めたのだ。
ある男は痴漢行為を理由に、ある男はセクハラを理由に、ある男はストーカーの疑いを理由に、ある男は目が合ったことを理由に、刺され、電撃を受け、車で挽かれ、爆破された。すべて即死だった。
警察? そんなものは機能しなかった。警察組織にだって女性はいるのだ。
内部での抗争が激化し、もっとも血が流れた組織こそ警察だった。
家庭は崩壊し、病院は女性看護師に支配され、老人ホームはホスピスを飛び越えてセメタリーになった。学校はおろか幼稚園保育園に至るまで人影はなくなり、そのうち町を出歩く人間は誰もいなくなった。
政府? そんなものが機能するとでも? あっという間の出来事に対応できず、法案の審議さえ無意味なこの事態。そもそも男vs女の抗争に治安を維持することなど、できるはずもなかった。
男女比率はあっという間に2:8で女性が有利となった。この段階で少なくともこの国の人口が40%近く減少、そして男性の75%が死亡したことは明らかだ。
ここまでパワーバランスが崩れてしまったら、立て直すことは通常困難だろう。だが、男たちは闇に隠れ、なんとか生きのびようと必死になった。
しかし、それも長くは続かなかった。持久戦ともなれば、食料を維持できなければ戦えないが、存在する食料のほとんどは女性軍の手に落ちていた。それ以外の政府、マスコミ、エネルギー諸々の機関機能はたちどころに女性軍に制圧されていた。
そもそもこの戦いは男性軍には圧倒的に不利だった。現代女性の自らの命を守る意志力は男性のそれとは比べ物にならないほど強い。その上彼女たちにはその弱点を補う通信系統、指揮命令系統として「イソギンチャク、ウミウシ連合」のバックアップがついていた。
元より男性軍に勝ち目はなかったのだ。
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