第13話 そして半分いなくなった……

 その後、桐子と香織の夜這いにおびえながら眠れずに一夜を過ごした俺は、夜が白む時間帯に自宅を出て、学校に向かった。


 勘違いしていたのだ。

 俺には安住の地など、なかったのだ。


 自分の部屋でさえ、桐子と香織がずかずかと入り込んでくる。


 そして口の軽いやつらはきっと、俺のことを学校で吹聴するだろう。


 俺が自宅に引き籠ったところで、社会的に抹殺されるのは時間の問題だったのだ。



 そう考えた俺は、仲間を求めた。


 朝のひと時を共に過ごす、あの男たちだ。


 俺の危機はそのまま彼らの危機でもある。

ここで互いに協力し合うことで活路を見出すしかない。


 そう思うまでに俺は精神的に追いつめられていた。



 校舎の洋式トイレに腰掛け、しばしの仮眠をむさぼる。


 俺の睡眠時間が狙われていることはわかっているのだから、事前に対処しておけばよいのだよ、レディパーフェクトリー!


(しかしそんな時にかぎって夢を見ないのだよなぜか……)



 始業時間のチャイムで目を覚ました俺は、中におむつを穿くと、トイレを出た。



 そして、教室に入ったところで異常に気がつく。



 担任のフグタ先生、副担任のオウガ先生は今日もいなかった。


 それだけではなく、クラスの男子生徒が俺以外誰も登校していなかった。


 つまり、生徒の半数がいなかったのだ。


(今日の学校は女性専用車両か何かか?) 

 それが俺の第一印象だった。



 そんな俺に対し、女子生徒たちから一斉に冷ややかな視線を浴びせかけられる。


 …………なんだよ ……いったいなにが起きた?


 突然の展開に、俺の思考は止まった。



「波夫、ちょっと」


 呼ばれて振り返ると、そこには真乃実と磯貝さんがいた。




 先生のいないホームルームの時間に、二人に廊下に呼び出され言われたのは


「危険だから、人に見つからないように自宅に戻って」

 という言葉だった。


「どういうことだ?」


「男と女の戦いが始まったの」

「え?」


「磯野くん、今朝のニュース見てないの?」


 磯貝さんに真顔で言われた。


「うん」


「女性軍が先手を打って、男性軍を攻撃したの。男性軍は大打撃を受け、ほぼ壊滅状態よ」


「軍……って、なんだよ?」

 磯貝さんの言葉がよく理解できない。


 真乃実が意を決したように言った。


「波夫、あのね、隆一くんや隆二さんたちに特殊な能力があることは知ってるわよね?」


「え? あ、ああ……」


「彼らは全員での意思疎通が可能なの」

「は?」


「わかりやすく言えば、今、波夫がおむつを穿いていることもみんな知ってるの」


「なん……だと……?」


「詳しく説明する時間がないの。急いで自宅に戻って待機して。でないと、殺されるわよ」


「……わ、わかった。帰るよ」


 俺は否応なしに帰宅することになった。



 できるだけ人に合わない道を通りながら自宅に戻り、ドアを開けると、そこには桐子と香織がいた。


「ちょっとあんた! いったいどこ行ってたのよ! めちゃくちゃ心配したんだからねっ!」


 いきなり桐子に怒られた。

 香織は泣き出した。


「えっと、ごめん、状況がまったく呑み込めていないんだが、教えてもらえないか?」

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