第8話 やつらの思惑

 帰宅後、俺は自室で考えた。


 あのイソギンチャクやウミウシどもは確かに面食いかもしれないが、それでもストライクゾーンは相当広いということを認めざるを得ない。それはつまり、世の女どもが自分に合った相手を見つけることができる一方で、俺たち男は完全にあぶれてしまうバラ色の未来……って誰が上手いことを言えと!


 やっぱこれはかなりまずい状況なのではなかろうか? そもそもニュースになっているんじゃないか? そう思いながら俺はネットで検索してみた。


 しかし、特にこれといって変わった情報はなかった。テレビをつけてみると、ちょうど6時のニュースだったが、女性アナウンサーの肩にちょこんとイソギンチャクがくっついている。やっぱり全然大丈夫じゃない! しっかりしてください有働さん!


 っていうか、そもそも既婚者とか問題にならないんだろうか? そして年齢は? 女性の同性愛者とは?



 と、そこまで考えたところで


「おにいちゃーん、ご飯よ~」


 と香織に呼ばれ、俺はリビングに向かった。





「ん? 今日の料理、全体的に多くね?」


 桐子の作った晩飯を食べながら、俺は思ったことを口にした。


「えーそうかなぁ? いつもと何も変えてないけどなぁ……」


 その桐子の棒読みな言葉に俺は嘘を感じた。っていうか、見ればわかるだろ! 


 刺身にステーキにかつ丼にお好み焼きにカレーとか、どれが主食なのかまったくわからんぞ! お前らどんだけ食べるつもりなんだよ! 家計の事とか考えてんのか?


「なんかお肉食べたくなっちゃったんだよねー、にくー」


 かわいい香織が無邪気に言ったが、眼が獲物を狙うハンターのようになってる!


「お前ら、彼氏の前でダイエットしようとか思わないのか?」


『いえ、大丈夫ですお兄さん』

『桐子には体力つけてもらって元気な子を産んでもらいたいので』


 ケイさんとカケルさんのテレパシーが飛んできた。親族として思うところはいろいろとあるが口には出すまい、そして考えまい……


 などと自重していたら、いつの間にか俺の前に残されたのはカレーと刺身だけになってたんだが、この食べ合わせ、いったいどうしろと…… ウゲ……



「おにいちゃーん、お風呂入ったよ~」


 香織に呼ばれて風呂に入る。今にして思えば香織ってよくできた妹だよな~。


 若干変わったところはあるけど、彼氏ができても俺になついてくれているし。


 そんなことを考えながら湯船につかったときに気がついた。


 案の定、お風呂の湯に塩が入ってる……


 ってことは、あいつら、風呂場でもラブラブなのか。若干嫉妬心が湧くと同時にどんなことをしているのか、ちょっと気になってきた。


 いやいや、エレクトはしないぞ、さすがに。自分の妹や姉だからな。そんなことは考えたこともない。夢の中で指をレロレロされたときはさすがに羞恥心でたまらなかったからだが、断じてそんな趣味はないからな! っていうかひょっとすると中学生の娘に不謹慎なことをしているのかカケルさんはーっ!


 とか妄想を膨らませながら湯船につかっていると完全にのぼせてしまい、風呂を出てふらふらしたまま自分の部屋に戻ると、そのまま眠ってしまった。




 あれ、これは夢だよな? 目の前にイソギンチャクがいるぞ? 俺はまた慰み者にされるのか?


『こんばんは、波夫さん。海野隆一です』

「ああ、隆一さんでしたか、こんばんは。今日は真乃実はいないんですか?」


『ええ、彼女は今、私の隣で寝ています』


 夢の中でそんな発言を聞かされるとは……


『実はあなたにお伺いしたいことがありまして……』

「なんでしょうか?」


『真乃実のことです』

「はい、なんでしょう」


 不思議と嫌な気はしなかった。


『私が来る前に彼女が好きだった男って、やはりあなただったんでしょうか?』

「さあ、それはわかりません」


『現在私も100%の愛情を彼女に注いでいるつもりなのですが、彼女の頭の中には、どうしてもあなたがいるようなんです』

「そうなんですか? それは単に幼馴染というだけで、恋愛感情ではないのでは?」


『私もそれがよくわからないんです。ただ、いざとなったら、波夫くんが助けてくれる、と彼女は信じているようなんです。記憶にありませんか?』


「いや、まったく……」


『そうですか……ありがとうございます』


「隆一さん」

『はい』


「あの……あなたに言うのもなんなのですが」

『はい』


「真乃実を……宜しくお願いします」

『……わかりました』


 まるで自白剤を飲まされたかのように自分の本心を隆一にさらけ出した俺。


 目が覚めた時、なぜか気分は爽快だった。

 そして、下半身からは奇跡的に何も出ていなかった。

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