第7話 大いなる脅威

 失態があったとはいえ、今朝は寝坊せずに桐子たちと登校したのだが、そこで俺は再び驚愕することになった。


 クラスの女子全員の肩にイソギンチャクがくっついていたのだ。


 それだけではなかった。他のクラスを見ても、女子の肩にはイソギンチャクかウミウシがくっついている。


 俺は何人かの彼女がいる(はずの)男に声をかけてみた。


「ひょっとして昨日、夢精しなかった?」


 ほとんどのやつは俺の投げかけた質問に対し、顔を青くした。


 これはやばい……

 俺は直感した。


 ***


 昼休み、俺は彼女を奪われた数名の男たちをそそのかし、集団で担任のフグタ先生のところに相談に向かった。


「うほっ! どうしたお前ら、ついに俺の個人レッスンを受け入れることを決めてくれたか?」


 いえ、違います。というか変な言葉を最初につけないでください。そしてターゲットは男全員だったんですね。


「先生、あのイソギンチャクなんなんですか!」

「先生、僕の夢をコントロールされたみたいなんですが!」

「先生、このままじゃこの世界の男は用済みになるんじゃ……」

「先生、実は俺も先生のことが……」


 なにやらこの場に不適切なやつを一人連れて来てしまったようだが、ほぼ本音が語られたようだ。


「何? イソギンチャクやウミウシに彼女を取られ、夢精させられただと? そりゃ興味深い話だな」


 いや、概ね間違ってないけどさ、こいつ実はコミュ力高かったのか?


「知っての通りイソギンチャクやウミウシは観賞用に人気が出るほどカラフルだが、一般家庭で飼育するのはかなり難しい。ただ、上陸したとなれば話は別だ。突然変異で人間の女性に寄生して生活する種があらわれたのかもしれんな。それに特殊能力を持っているのであれば、それはもう、女たちはあいつらに任せ、男は男で乗るしかない、このビッグウェーブに!」


 この先生に頼ったのが間違いだったかもしれない。最後にダメもとで聞いてみる。


「先生、今後どうなると予測されますか?」

「そうだな。おそらく明日になればわかるだろう。ただ、彼らはヒトの心を読む能力を持っていると思われる。迂闊うかつな行動はとるなよ」


 明日ですか。確かに今のところ俺には実害はないけど。テレパシー飛ばされるのは不愉快だけどさ。まあ近づかなければ実害はないわけで。って、自分の姉や妹の相手があいつらでもいいのか俺? まあ本人たちが幸せならいいか……


 そんなわけで変態すれすれの会話をギリギリのところでかわしながらも結局、それ以上有益な情報は得ることができなかった。



 ***



 教室に戻ると、隣の席の山口がいない。あれ? さっき一緒にフグタのところに行かなかったんだっけ? そう言えば見かけなかった。後ろの席の関口くんに聞いてみる。


「ああ、山口なら一人でオウガ先生(男)のところにいったぞ」

「え? オウガ先生って……関口くん、めなかったの?」

「なんか、失恋のショックで精神的に相当きてたみたいだね。あれはしょうがないと思うよ。止められない……」


 よりによってそっちに行ったか山口! あの変態体育教師はフグタよりやばいぞ。この高校でここ数年何人もの行方不明者が出ている原因はあいつらしい。


 俺の予感は的中し、チャイムが鳴っても山口は教室に戻ってこなかった。


 先生が教室に入ってくる前に、なんとなく窓の外に見える体育倉庫に目をやったその時、そこから山口の声らしき雄たけびが聞こえた



「アッ―――――!!」




 やはりヤられたか……。

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