第3話 モブキャラ女子たちと磯貝京子

 目が覚めた俺は、自分の部屋に誰かいることに気づいた。


「あー波夫ごめん、起こしちゃった?」


 桐子だった。だからどーやって入って来たんだよ!


「いや、ケイさんに私の好みを教えてくれって言われてさー、あんたのエロ本、貸してくんない?」


 ちょ! なんでリアルにそんな話するんだよ! って、あれ? 体が動かないぞ?


「ん? どうしたの?」


 桐子が俺の布団を剥ぎ取る。

 俺の両手両足はベッドの角に鎖で固定されていた。

 そしてそんな俺の脇ですやすやと寝息を立てていたのは、スクール水着姿の香織。


「ん? おにいちゃん、どしたの?」


 寝ぼけ眼で香織が俺のべとついた何かをいじりはじめた。


「香織、また波夫を縛り付けたのね。って波夫! あんた、頭悪いとは思ってたけど、なんでそんな隙だらけなのよ!」


 桐子が烈火のごとく俺に詰め寄る。待て待て! 俺はきっちりカギしめたぞ! 不可抗力以前にいろいろとおかしいのだが、超展開にどうすればよいのか理解が追いつかない。


「あれ? おにいちゃんのここ、どしちゃったの~?」


 香織が俺のベタつきを触る。あまりの恥ずかしさに俺のなにかがそそり立った。


「ちょっと波夫! 自重しなさいよ!」


 そこから先、何が起きたのかはわからない。朝まで気を失ってしまったからだ。



 ***



 翌日やはり寝坊して家族の中一人出遅れた俺は、教室で真乃実に出会った。


 「おはよう……」


 「おはよー!」


 昨日にも増してご機嫌そうだ。俺は何気に伏目がちに彼女の足をみてしまう。今日も漆黒のガーストが輝いて見える。目を上げると彼女の栗色の長い髪の下にある、柔らかそうな肩に、やはり海野隆一さんが鎮座されてらっしゃった。そして何やらニヤニヤした目つきで見られている気がする……。



 チャイムが鳴って着席したその時、奇妙なことに気がついた。真乃実の周りの女子の肩に海野のようなイソギンチャクがくっついているのだ。


 数えると、六体ほどいる(海野を除く)。クラスの女子の数が20名程度だから、かなりの繁殖率だ。どちらかというと美人系もしくはカワイイ系の女子にくっついている。潮崎、浦辺、天海、岸辺、潮田、磯貝……。


 あれ? 磯貝京子って山口と付き合っていたんじゃなかったっけ? 


 授業終了のチャイムが鳴り、先生が教室を出た瞬間に俺は隣の席に声をかけた。


「ちょっと、山口」

「どうしたの」


「きみ、磯貝と付き合っていたよね?」

「…………」


「ん? どしたの」

「……振られた ……昨日」


「え、マジで? ごめん!」


 山口の眼には涙が浮かんでいた。ただ、俺も謝ったものの実はその可能性には気がついていたんだと思う。とりあえず俺は、その場でうなだれつつ顔を背けた山口をあとに教室を出た。


 隣のクラスのドアを開けると、ちょうど先生が出て行ったところだった。俺は中に入り、桐子を見つけようとしたが、探すまでもなかった。なぜなら、その桐子を中心とした女子たちの肩にウミウシがくっついていることに気がついたからだ。


 なんとなく納得した俺は、教室に戻る。


 しかしこの時の俺はまだ知らなかった。すでに海洋生物による人間社会への侵攻が始まっていたことに……。

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