第2話 うちの姉妹がウミウシ兄弟とつがいになった件

 目が覚めた俺は、部屋に誰かいることに気づいた。


「あー波夫ごめん、起こしちゃった?」


 双子の姉の桐子きりこだった。っていうかなんでこんな夜中に入って来るんだよ!


「ちょっとムラムラして寝られなくなっちゃってさー、あんたのエロ本、貸してくんない?」


 ちょ、やめろよ! って、あれ? 体が動かないぞ!


「ん? どうしたの?」


 そう言って桐子が俺の布団をぎ取る。

 俺の両手両足はいつの間にかベッドの角に縄で固定されていた。


 そしてそんな俺の脇ですやすやと寝息を立てていたのは、パジャマ姿の妹の香織かおり


「ん? おにいちゃん、どしたの?」


 寝ぼけまなこで香織は俺のべとついた何かを触っていた。


「か、香織……って波夫! あんた変態だとは思ってたけど、実の妹にまで触手を伸ばすとはっ!」


 桐子が烈火のごとく俺に詰め寄る。不可抗力以前にいろいろとおかしいのだが、急展開にどうすればよいのかまったくわからない。


「あれ? おにいちゃんのここ、どしちゃったの~?」


 寝ぼけながらそう言うと、香織は俺のべとべとの部分に顔を近づけクンクンしはじめた。


 あまりの恥ずかしさに俺のなにかがそそり立つ。


「ちょっと波夫! 自重しなさいよ!」


 そこから先、何が起きたのかはわからない。朝まで気を失ってしまったからだ。



 ***



 翌朝寝坊して一人出遅れた俺は、学校の教室で真乃実に出会った。


 「お、おはよう……」


 「おはよー!」


 俺は気まずかったが真乃実は何事もなかったかのように挨拶してきた。

 真乃実の肩には件の海野さんが鎮座されてらっしゃる。

 何やらニヤニヤした目つきで見られている気がする。



 昨日のことが頭から離れない俺は授業どころではない。ただそれは真乃実よりも、イソギンチャクの海野の事だった。いまだに覚えているあの鮮明な夢、ただ事ではないように思えたのだ。なんせ夢精なんて久しぶりで、あの海野が俺に何かテレパシーで働きかけていたような気がしたのだ。いや、はっきり言おう、俺はあいつのことを疑っていた。




 放課後、担任のフグタ先生(男)に相談した。


「どうした波夫、ついに俺の個人レッスンを受けいれることを決めてくれたか?」


 違います。ちなみにこの担任、生物教師で筋金入りの変態である。


「何? イソギンチャクが人を襲うことがあるかだと? そりゃ興味深い質問だな」


 いや、そんなことは聞いてないよ。


「イソギンチャクは昔、『イソツビ』って言われていてだな、その意味はつまり、磯の『女性のあれ』って意味で、むしろイソギンチャクが男に襲われていた可能性はあるかもしれんな」


 そんな話、聞きたくもなかったです。


「そういえばアメリカの生物学の大家、トミー・フー教授が最近、イソギンチャクでエレクト勃起できれば本物、という論文を書いていた気がする」


 誰ですか? その変態教授は?


 変態への誘いをギリギリのところでかわしながらも結局、それ以上有益な情報は得ることができなかった。



 ***



 恐る恐る自宅に戻ると、桐子も香織もすでに帰宅していた。両親? 母親はとっくに死別し、父親は海外に長期出張中なもんで、家には俺たち三人しかいない。


「波夫、昨日はごめん。私、勘違いしてた」


 突然リビングに入ってきた桐子に謝られ、びっくりする。ただ誤解は解けたみたい。


「あの後私、考えたのよ。香織があんたのことを好きなのはしょうがないとしても、間違った道を歩ませてはならないって。だから私が香織に相手を紹介しようと思ったの」


 え?


「実は私の彼が弟さんを紹介してくれて」


 は? お前、彼氏いたの?


 確かに桐子は美人だ。色白で長い黒髪が甘い顔立ちに合っている。性格的に少しあけっぴろげなところはあるが。


 だから彼氏がいても不思議じゃないんだけど、浮いた話は聞いてなかったからびっくりした。


「それでね、香織の方もまんざらじゃないみたいなの」


 なにそのやっつけ感! というか、確かに香織も兄の俺が欲目を抜きにしてもカワイイ。中3にしてはスタイルいいし、ショートヘアにホヨホヨした顔が反則なほどカワイイ。性格的にブラコンすぎるところはあるけど。だからそんな展開も考えられなくはない。ただ、相手はどんな男だ?


「ちょっと呼んでくるね」


 え? うちに来てるの?


「あ、お兄ちゃん、おかえり!」


 そう言ってリビングに入ってきた香織の肩にはウミウシがちょこんと乗っていた。


「………」


『初めまして、伊豆田いずたカケルと申します。ウミウシやってます。上陸したのでリクウミウシかもしれませんが』


 テレパシーのようなものが飛んできた。だが正直反応に困る。というかあなたも日本人姓なんですね。目がどこかわからないので表情はわかりませんが。


「イケメンでしょ!」


 香織に言われたが、どこからどこまでが顔なのかがわからないのでさらに困るんだけど。


 そんな俺のそぶりを見て、ウミウシさんは少し不愉快だったっぽい。どこからか「めるな!」というセリフが聞こえた気がする。



「私の彼も来てるの」


 は? 桐子の彼氏さん?


『こんにちは、伊豆田ケイです。桐子さんとお付き合いしております。将来結婚したらあなたのお兄さんになってしまいますが……』


 微妙なことを言われ、やはり返答に困っていると、こちらの方の機嫌も損ねてしまったみたい。なんか嫌な予感がする……。



 ***



 その晩、誰も入ってこないように部屋に鍵を二重にかけてからベッドに入ったが、目が冴えて眠れない。桐子と香織の体をウミウシが這いずり回る妄想が巡り、寝付けなかったのだ。


 これまで身内を性的な目で見たことはなかったし、考えたくもないが、付き合う相手が相手なだけに、心配になる。特に香織はあんな相手と付き合うくらいならまだ俺のほうが良かったんじゃないか?



 そのうち、うとうとし始め……


 気がつくと、俺の体はイソギンチャクの触手でがんじがらめにされていた。


 パジャマは優しく脱がされ、お尻のあたりを触手で優しく撫でられる。条件反射か、背中を冷たいものが走った。


 やばいっ! そう思って四つん這いのまま身体に力が入った瞬間、俺の両の手は優しく包み込まれた。


「えっ?」


 見ると、俺の右手をビキニ姿の桐子が、左手をレオタード姿の香織が取って優しく微笑みかけてくる。


「波夫」

「お兄ちゃん」


 な、なんだ? その恍惚な表情は! と思って両方の手のひらを開いたとき、桐子も香織も俺の指にしゃぶりつきだした。


「レロレロレロレロ……」

「レロレロレロレロ……」


 えええええええええ?


 ぞくぞくする感覚に思わずのけぞって顔を上げた瞬間、今度は胸のあたりをぬるぬるとした感覚が襲う。見ると、二匹のウミウシが這いずり回っていた。


 ぬぅわああああああぁぁぁ!!


 思わず声をあげた時、俺の前立腺が刺激され、無重力空間の中で再び背骨は反り返り、頭は真っ白になった。



 ***



 朝、目が覚めると、俺は夢精していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る