幼馴染がイソギンチャクと付き合うことになった件

叶良辰

幼馴染がイソギンチャクと付き合うことになった件

波夫side

第1話 幼馴染がイソギンチャクと付き合うことになった件

「ごめん、波夫なみおとは付き合えない」


 いきなり振られた俺。


「波夫はたぶん、あたしのことが好きなんじゃなくて、あたしのガータ-ストッキングにクラクラしてるだけなんだと思う」


 幼馴染の真乃実まのみの言葉がグサッと胸に突き刺さる。


 ああ、そうさ、そうだよ。真乃実の小悪魔的なガータ-ストッキングが大好きなんだ。でも、それでいきなり拒絶することはないじゃないか! きみだってそれなりに俺にモーションかけてたじゃないか!


「好きな人が、できたの」


 え?


「イケメンなの」


 で、でも、それってまだ相手のOKはもらって――


「今、その彼と付き合ってるの」


 うそ……いつの間に!


「波夫には内緒だったんだけど、相思相愛なの」


 ………


「実はここに連れてきてるの」


 は?


 真乃実が向き直った方から、人影が、来ない。


「彼なの」


 誰もいないん、ですけど?


「もう、ここにいるの」


 そう言われても向かい合って座る俺との間には、さえぎるものは何もない。


 ん? 真乃実の肩にちょこんと何かが留まっている。




 イソギンチャク?




「イケメンでしょ」


 いや、イソギンチャクに顔ないだろ。



「波夫との結婚も考えてはみたんだけど、正直、将来ハゲ散らかすイメージしかかなくて……」


 今それ言うなよ。確かに髪については代々そんな家系だけど。


「彼だったらその心配はないかな、って」


 確かにふさふさだけど、俺はそんなことで無脊椎動物に負けたのか?


「彼には波夫のこと、幼馴染って説明してるから。理解してくれてる」


『はじめまして。海野隆一りゅういちと申します』


 いきなりイソギンチャクがテレパシーか何かで俺の脳に直接語りかけてきた。

 っていうか、名前あったのか!


 俺が胡散臭い目で見ていたせいか、隆一さん(?)は不機嫌そうだ。顔色がわかるわけではないが、なんとなくそう思った。



 ***



 その後、真乃実と別れて自宅に戻るまでのことはあまり覚えていない。あまりに不毛な会話で、全くかみ合っていなかった気がする。少なくとも今はあいつに振られた事実だけが俺の心に重くのしかかっていた。ただ、あの「海野隆一」と名乗るイソギンチャクに終始怪しげな目で見られていた気はする(そもそもどこに目があるのかすら定かではなかったが……)


 そうだ、俺は真乃実に「全てにおいて『隆一さん』に劣っている」って言われたんだった。なんでも、隆一さんはとても紳士的で、それでいて野性的、おまけにテクニックも凄いらしい。なんだそれ? わけがわからない。真乃実ってもっと健全なやつかと思ってたけど違うのか? まあ高校生でガーストは普通、はかないか。


 そんなことを考えながら眠りについた。



 ***



『波夫さん、本日お目にかかった海野隆一です』


 え?


『こちらです』


 振り向くと、真乃実がガーターとストッキングだけのあられもない姿で海野の触手に絡めとられていた。真乃実は栗色の長い髪を揺らめかせ、涙を流しながらも恍惚とした表情を浮かべている。


 俺は息をのんだ。「真乃実!」と叫びたかったが、彼女の表情に押しとどめられた。彼女は全身を海野にもみしだかれ、解きほぐされ、心なしかピクピクとけいれんしているようだ。まるでカラフルな海野が水中で獲物の魚を捕らえた光景のように思えた。


 触手を首筋や手首、足首、ふくよかな胸と下半身に絡ませ、重力とは無縁の空間で、海野が真乃実の全てを支配していた。


 ―― あはぁっ! 隆一くぅん!


 真乃実の唇から言葉が漏れる。


 俺はその光景から目を背けることができず、むしろ真乃実の足ばかり見ていた。


 こんな時でも平常運転の俺だった。俺はそこに海野との差を思い知らされた気がした。



『波夫さんもご一緒しませんか?』


 は? どういうこと?


 気がついた時には俺の体も海野の触手に絡み取られ、服をはぎとられていた。突然身動きが取れなくなったが不思議と嫌な気はしなかった。


 そのまま海野に身をゆだねると、突如、背筋に冷たいものが走る。


 触手が背後から俺の処女を奪おうとしていた。


「アッ―――――!」



 ***



 目が覚めると、俺は夢精していた。

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