第16話


 強い力で肩を掴まれ、目と目が合う。ももの真剣そのものみたいな瞳に私が映っているのが見えたそのとき、全身が緊張するのを感じた。


「あたしは、あんずとこれからも一緒に生きていきたいって思うんだ」

「こういうとき、女はさ、友達より、彼氏優先するものなのかもしんねーけど。確かに、みどりのことは好きだよ。今でも好き。だけどあたしには、あんずと離れることの方がずっと悲しかった」


 ももは無茶苦茶なことを言ってるっていう自覚がない。思い返せば、昔からいつもこの人は無茶苦茶だった。無茶苦茶じゃないことなんて少ないんじゃないかってくらい。


 だってそんなことバカなことして、一体何になるの。私と一緒に生きていくって、そんなことできるわけない。だって私とももの気持ちには違いがあるから。キスのその先をしたいって私が言い出したら、一体どうするつもりなのか。

 それに、友情でつながるとしても、難しい。女同士の友情はもろいっていう呪いみたいな言葉を耳にする理由はきっと単純で、私たちには、友情よりも大切にしなきゃいけないものが増えていくからだ。どれだけ大切にしたくたって、できなくなるからだ。学生の間はまだいいかもしれない。夫や子どもができたら、私たちの関係はきっとゆるやかに終わりを迎えるだろう。


—良く分かってる。良く分かってるのに、性懲りも無く「もっと」を求める欲深い私は、いつもひだまりの中で笑ってる私の大切な女の子の手を、離したくないって思ってしまう。


「周りがどうするかなんて、どーだっていいじゃん。あたしとお前の組み合わせは、世界でたったひとつなんだからよ」


 ダメ押しの一言を口にされて、私はもものゴツゴツした背中を強く抱きしめた。かっこよすぎる私のヒーロー。ももはいつだってこんな風に、私を地獄の穴の底から助け出しにきてくれる。


 カーテンのない部屋の隅にふたり並んで座って、私は一番気になっていたのに、聞けなかったことをももに尋ねた。


「ねえもも。どうしてももはそんなに、私のこと好きでいてくれるの?」


 私はひねくれてるし、めんどくさくて自己中だし、ももに何かしてあげられるわけじゃないのにというニュアンスが伝わったのか、ももは少し笑った。


「入学した当初、あたしはひとりぼっちだった。ヤンキーみたいな見た目だし喧嘩っぱやい性格だしで怖がられて、友達なんて一人もいなかった。あたしはいっつもイライラしてた。親もクラスメイトも先公も、何で誰もわかってくれねーんだよって。もういっそヤンキーになってやろうかって思ってさ、ボーリョクしたことさえある」


 私は黙って、ももの言葉の続きを待った。ももは顔を伏せながら、拳を見つめている。


「そんなときにさ、お前を見つけたんだ。見た目が可愛いからってクラスの連中にいじめられても、誰にも媚びずに、自分の宗教だけを信じて、お前はいっつも一人で突っ張ってた。そういうあんずの姿がどれだけあたしの支えになってたか、知らねーだろ。あの頃、あたしのヒーローはあんずだった」


 そんなの初めて聞いたよ、と驚いて言うと、ももの優しい目が私を見つめていた。


「だからあの日屋上で、あんずと友達になれて嬉しかった。あたしを見つけてくれて、ありがとな、あんず」


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