第34話  「木星の鬼さん」

「アマンダ」も窓から外を見ながらびっくりして言いました。


『すごい。地平線の向こうまで、全部お花畑だ。』


『うわあ~。』


 「くまさん」も、ほかの「ぬいぐるみさん」たちも、ただただびっくりです。


『これは、アニーも驚きです。何と言いましょうか、 ここには果てが見えません。というか、観測できません。』


 宇宙船アニーが、そう言いました。


『そんなばかな。果てがない場所なんかないさ。』


 アマンダが反論しました。


『そうなんですが、ただまあ、まったくないわけでもないです。例えば宇宙がそうです。宇宙には事実上果てがありません。しばらく前までは、「定常宇宙論」といって、宇宙は時間がたっても動かないと多くの人が信じていました。』


『さっぱりわかんない。』


 「ぱっちゃくん」が言いました。


『まあ、お空の銀河は、みんなずっとそこにあると考えました。』


『違うのかい?』


『ええ。宇宙は膨張していることがわかってきたのです。遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかってゆきます。ずっとずっと遠くでは、光速を超える速度で遠ざかっていると考えられますが、その先は観測ができません。だから果ては無いのです。どっちの方向に行ってもそうです。やがて、いつの日にか、地球からは、他の銀河は見えなくなります。 ただ、このお花畑がおんなじだとは、とても考えられませんね。それでも、すっごく広いです。ここが木星の内側だとすれば、広いのは無理もないですが。木星の直系は、地球の11倍もあります。でも、木星はガスの固まりで、周囲の大気層が5000キロあり、真ん中に固まった芯の部分があると考えられています。間に金属水素の層があるといいます。でも人間は、まだだれも本当の内部を確認してはいません。でもこのところ、観測が進んでいるので、これからいろいろな研究結果が出てくるでしょう。』


『お花畑があるなんて、考えたこともない?』


 「アマンダ」が聞きました。


『まあ、そんなことを考えるのは、「しっくん」さんとかの、素人さんだけでしょう。あり得ないですよ。地面があるなんてことが、もう変ですよ。』


『じゃあ、やっぱりここは天国❓』


 「くまさん」が言いました。


 「ぱっちゃくん」が、また、じくじくと泣き始めました。


『いやいや、皆さんはともかく、アニーは天国にはゆきません。壊れるだけです。つまり、これは現実なのです。』


『じゃあどこなのさ?』


 アマンダが尋ねました。


『わかりません。』


『結局、分からないんだ。』


 「こんちゃん」が言いました。


『そうです。まあ、あえて考えれば、あの大きな口が、どこかの別の世界の入口になっていたのかもしれません。』


『どこの❓』


 「くまさん」が尋ねました。


『わかりません。』


『まあ、しかたないよ。で、どうやってここから出るの❓』


 「魔女アマンダ」が言いました。


『さて、アニーの推進力では脱出できそうにないですね。ゆっくりと考えますから、宇宙船の中は大丈夫にしましたが、外に出ちゃダメですよ。何がどうなってるのか、さっぱりわからないですから。』


『海賊さんたちはどこ❓』


 「くまさん」がまた尋ねました。


『いやあ、それが見当たらないのです。通信もしてみていますが、回答がありません。多分お互いに、行方不明なんでしょう。』


 その時です。


 大きな声が聞こえたのは。


『こらー! そこにいるのは誰だあ?』


『ええ?誰か叫んでる。』


 「くまさん」がびっくりして言いました。


『こらー! そこにいるのは誰かあと、聞いている。答えよ!』


『あれ、あれ、お空の上。』


 「ぱっちゃくん」が、べそをかきながら言いました。


 なんだか、その燃えるようにまぶしい、真っ青なお空の上を、みんなが窓から見上げました。


 そこには、大きな大きな、真っ赤な「鬼」さんの顔があったのです。





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