第30話  「だいかいぞく」

 『あー、あー。そこの宇宙船、ただちに、停船せよ。われわれは、【宇宙海賊マ・オ・ドクとデラベラリ先生の愉快な子孫たち】である。ただちに停船して、金品をわたしなさーい。そうすれば、命に危害は加えなーい。無視すれば、強烈な【デラベラリ砲】で貴船を破壊するー。なお、このバイクの男は、捕獲(ほかく)したぞー!』


 宇宙船じゅうに響きわたる、大きな声が聞こえました。


『あんなこと言ってるよ。どうするの、「アニー」さん。あのおじさんつかまっちゃったよ。』


「くまさん」が聞きました。


『なんか、景色がすごく早く動くよ。』


「ぱっちゃくん」が、半べそで言いました。


『すみません。ブレーキが故障です。止まりません。スピードが上がっています。このままだと光速ぎりぎりまで行きます。アインシュタインさんの相対性理論によってかんがみると、光速に限りなく近づくと、時間が無限大に遅くなって、加速度が無限小になって・・・・まあ、ともかく光より早くは飛べません。しかし、「アニー」もぎりぎりまで試したことはありませんので・・・。』


 窓の外を、何やら光線ようなものが通過してゆきました。


『こらー、止まれと言ってるのに早くするやつがあるかー。攻撃だー。撃てー。こらこら、へたくそ-お、外れてるぞー。』


 大きな声が、何だか全部聞こえます。


『だって、親分が、本当に当てちゃだめだーって、いつも言うから。』


『うるさーい。止まれー。追いかけろー。光速ぎりぎりだ。行けー、逃がしちゃならねえ。おれたちのプライドが許さないぞお。こらあ、破壊するぞー。』


『あんなこと、言ってるよ、いいの?』


 「くまさん」がまた聞きました。


『だって、止まらないんです。これでは、いずれ「冥王星」も通過してしまいます。』


『えー、それは困るよ。「アマンダ」さん、なんとかしてよ。』


 「ねずくん」が叫びました。


 「ぱっちゃくん」は、大泣きしはじめています。


『こらー、もう我慢ならねえ。ぶっ壊すぞー!』


 「ぱっちゃくん」は、とうとう床にひっくり返ってしまって、手足をバタバタさせて、もっともっと泣き出したのです。


『と、いわれてもねえ。宇宙船は専門外だよ。こいつ、うるさいねえ。』


「アマンダ」が「ぱっちゃくん」をにらみながら言いました。


「ぱっちゃくん」は、そのあたりを転げ回って、もっともっともっと、泣きました。


 すると、そのとき、その「ぱっちゃくん」の手が、床ぎりぎりにある『非常ボタン』と赤い字で書いている、小さな小さなボタンを偶然に押したのです。


『あれ、なんか遅くなったような。』


「くまさん」が外を見ながら言いました。


『やりましたね。ブレーキが治りました。もう正常です。』


「アニー」がうれしそうに言いました。


『なにか、魔法とか使いましたか?』


『さあ、何もしてないよ。全く分からないよ。』


「くまさん」が言いました。


「ぱっちゃくん」の泣き声が、だいぶん小さくなって、『ひっく、ひっく』し始めました。


『あー、あー、何だか知らないが、そこの暴走宇宙船。こら止まりなさい。また撃つぞー!』


 こんどは、「海賊」が『ひーひー』言いながら叫んでいます。


『なんか、気の毒なような。』


 「もーくん」が、ゆったりと言いました。


『でも、時間が無いし、怖いし、また「ぱっちゃくん」が大騒ぎするよ。止まっちゃだめだよ。逃げよう。』


 「くまさん」が提案しました。


『それが、正解だよ。』


 「アマンダ」も言いました。


『いやあ、でも、また攻撃されたら、いくらへたくそでも、あれがもし直撃したら、アニーはこわれちゃいます。全員アウトですよ。』


『やれやれ、しかたないねえ。でもね、作戦としては、悪くないさ。相手が人間なら、また魔法でなんとかするよ。』


 アマンダが、自信ありげに言いました。


『はあ、まあ止まるしかないですね。』


 アニーは、ゆっくりと宇宙船を止めました。


 「海賊」たちが、うわーっと、押しかけてくるのが、窓から見えました。



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