第28話  「コンビニ強盗」さん

 「宇宙船アニー」がコンビニを取り囲んでいる透明な球体にゆっくりと近づくと、すーっと丸い入口が空きました。


 『おもしろいなあ。』


 「ぱっちゃくん」が手を叩いて喜びました。


 「宇宙船」は、その入口から中に入り、それから駐車場に降りました。


 そこには、もう、誰でもが知っているような「コンビニ」がありました。


 お店の上には、「ミミズさん」がのたくったような、見たこともない大きな文字が、色とりどりに光りながら、並んで書かれていました。


 その下側には、なぜか日本語で「太陽系お気楽コンビニ太陽支店」と書いてありました。


 「アマンダ」と「くまさん」と「ぱっちゃくん」と「こんちゃん」と「ねずくん」と「もーくん」は、自動ドアをくぐって中に入りました。


 お店の中には、お客さんが6~7人は来ていました。


 どうみても、みんな普通の「地球人」みたいな感じです。


 ただし、よく見ると、角があったり、牙があったりもしています。


 あとでアニーさんに聞いたところでは、実は、みんなお仕事の関係上、地球の人間の格好をしていることが多いのだそうです。


 そこで、いまお店の中で一番注目されそうなのは、実は「くまさん」たちだったのです。


 仕方がないので、「アマンダ」は「くまさん」と「ぱっちゃくん」と「こんちゃん」を抱き上げました。「ねずくん」は小さいので、肩の上に載せました。


 しかし「もーくん」は大きすぎて、どうにもなりません。


『あんたは、ついといで。』


 アマンダは、そう言いました。


 まあ、しかしお店の中では、お互い余計な干渉をしないのが暗黙(あんもく)のお約束です。


 「もーくん」や「くまさん」たちが、一体どこの「宇宙人さん」なのか?は、みんな気にはなっていましたけれどね。

 

 お店の中の商品は、本当にたくさんあって、地球のスナック菓子もあればインスタントラーメンもあります。ちょっと高級そうなケーキだってあります。


 日本製の懐中電灯とか、アメリカ製のサングラスとか、中国製のラジオとかもあります。


 でも、何に使うのかさっぱりわからない、不思議なものもありました。


『これなんだろう。』


 「ねずくんが」言いました。


 大きなカップが二つ並んだ、両側にそれぞれひもが二本ついている、おかしなもの。


『そりゃあ、これは、女の人が胸に付けるんだよ。びーちゃんがしてたもん。』


 『こんちゃん」が言いました。


『おほん。あんたたち、字が読めてないのかい?ほら、なぜか英語の下に日本語でも書いてる。「二口星人様用マスクコーナー」って。』


 アマンダが指摘(してき)しました。


『ほんとだあ。「マスク」なんだあ。』


 「くまさん」が言いました。


『あ、こっちこっち、これなんだろう?』


 「こんちゃん」がパタパタと走りました。


『ううん・・・なんだろう?』


 アマンダも考え込みながら、商品プレートを探しましたが見当たりません。

 それは、真っ黒な、まあるい玉でしたが、透明なケースに収まっていました・・・・・・。


【注意:惑星や衛星等の大気圏内では動作しません。】


 と、太い字で書いてあります。


『そりゃあ。あんた、「ミニ核爆弾」だぜ。』


 横で見ていた顔中マスクのおじさんが言いました。


『ひえ!ミニ核爆弾❓』


『ああ。あんた工事関係の人たちじゃなさそうだから、無理もない。小惑星なんかのコースを少しだけ変えてやるときなんかに、ちょっとだけつかうんだ。例えば、このままだと三年後に地球にぶつかりそうだ、となったら、早いうちにずらしてやっとくのさ。ちょっとでいいんだ。まあ、もっと近くなってくると、大きいのも使うが、それはさすがに、コンビニじゃあ売ってないがな。ときに、あんたたち何処に行くの?』


『え、ああ、「火星の女王様」に用事があってね。「天王星」あたり、に行くんだよ。』


『おりゃあ、そりゃあすげーなあ。どうも、あんた以外は、変わった格好の「宇宙人」だなあと思ったぜ。ま、がんばりな。』


『それは、どうもありがとう。』


 やれやれと思いながら、アマンダたちは。お店の中をひとめぐりしました。


『いやあ、なにか買うと言ってもねえ、「核爆弾」買う訳にもいかないしねえ。食べ物は、体に合うかが心配だしねえ。ああ、そうだ。』


 アマンダは、レジにいた、なかなか二枚目のお兄さんに尋ねました。


 実は少し気にはなっていたのです。


『ちょっとした、ここに来たっていう、記念品みたいなのないかい?』


『ああ、ございます。このキーホルダーは、太陽系内でも、ここでしか売っておりません。当店の限定商品でございます。いま大変人気です。お勧めでございます。』


『そうかい。じゃあ、私と、この子たちにそれぞれ一個づつ選んでおくれよ。』


『はあ、わかりました。では、・・・・・こんなところでいかがでしょうか。』

 彼は、ささっと、ケースの上に並べました。


『まあ、時間がないから、これにしよう。ただ、この大きな「うしさん」は、どうかな?』


『ああ、大丈夫でございますよ、ほらこの、ペンダントにもなる、これなら、こうして首に巻けます。』


『おお、かわいいじゃないかい。よし、で、おいくら?』

『ええ、地球のドルでよろしいですか?』


『ああ、でも、できれば、円が良いねえ。』


『では、一万三千円でございます。』


『ぶ! 高ああ・・・いや、仕方ない。カードでもできるかい?地球の。』


『ええ、もう、たいがいは出来ます。拝見します、あ、これなら、大丈夫です、では、暗証番号をどうぞ。』


『忘れたよ。サインでいいかい?』


『はあ、どうぞどうぞ。』


 アマンダは、伝票にサインしました。


 これで、お買い物完了ですよね。


 地球と同じです。


 ところが、その時です。


 玄関から大きな声が聞こえてきました。


『おどりゃあー、全員床に伏せろおおおお!』


 シュババババッババババッババ!!

 と、光の筋が天井を走りました。


『光線銃だ!!』


 誰かが叫びました。


 こういう事は、アマンダが比較的慣れています。


 だって自分がやってたんですからね。


『ほら、あんたたち伏せろ。』


 アマンダは「くまさん」たちを、お店のフロアに押し付けました。


 でも、「もーくん」は、まるまるとして大きいので、横向けにさせました。

『レジ! レジ!金出せ。全部。オール。ハリー・アップ! マニー・マニー!!』


 男は、顔面に鉄マスクをかぶり、まるで西部劇に出てくる悪役スターのようなチョッキを着て、なぜか、青いネクタイを締め、ジーンズをはいて、さらに下駄をはいていました。


 とっても、アンバランスな、おかしないでたちです。


 しかし、目が血走っていて、かなり興奮しています。


『オー・マイ・ゴッド』


 と叫ぶ女性客もいました。


『うるせえ。客は黙って、頭の後ろに手組んで、床に寝ろ。おい、早く金出せ!』


 レジ担当の青年が緊急対応ボタンを押そうとしましたが。男が叫びました。


『そこ!変に動くなよ。消すぞ。』


 そう言って、光線銃をレジの横のテーブルに向かって撃ちました。


 テーブルは、”しゅっ” と言って消えてしまいました。


『ううん。仕方がないか。魔法が効くかしら。』


 アマンダは、口の中で呪文を唱えました。


 すると、男の頭の上に大きな黒い雲が現れ、突然そこだけが大雨になりました。


 ついでに雷も鳴り出して、「強盗さん」の頭に、どんどん落ちます。


 大きな「ひょう」や「あられ」も降り出して、竜巻も渦を巻き出して、もう「強盗さん」の頭の周辺は大変なことになりました。


『うひゃあ、なんだこれはあ。』


 と叫んでいると、今度はついに、頭の上から大きなお鍋やフライパンが、どんどん落ちて来て、「強盗さん」の頭を次々に直撃しました。


 これが決め手となって、「強盗さん」は光線銃を放り出して、ギブ・アップして、座り込んでしまいました。


『いまだ!』


 アマンダが叫ぶと、店員さんやお客さんが寄ってたかって「強盗さん」をひもでくくり上げてしまいました。


『ちくしょう。ちくしょう。俺だって地球で真面目に働いてたんだ。それが、昨日急に社長に「気に入らん」と言われて、くび。給料は、なんだかんだと「諸費用」とかを引かれて、ほぼなしさ。宇宙バイクで、太陽に飛び込もうかとここまで来たが、燃料もつきて、さっぱり動けなくなったんだ。ちくしょお~~~!!』


 「強盗さん」は、おうおうと、泣いていました。


『まあ、かわいそうに。』


 アマンダが、手をパンパンとはたきながら言いました。


『あああ、この人どうするの?』


 「くまさん」が尋ねました。


『まあ、こうした場合、一般的にはそこの裏のダストボックスから宇宙に放り出します。』


 店員さんが言いました。


『え? 捕まえて、裁判とかしないの❓』


 と、「くまさん」がまた尋ねました。


『はい。ここは宇宙ですし、特に誰かの権力の範囲とか言う決まりが、今はまだ、はっきりとはありません。一般的に、女王様のお決めになった事が通用していますが、こういう場合は、基本的には、現場に処置が任されています。なので、捨てます。』


 店員さんは、あっさりといいました。


『非常ベルとかがないの?』


『ありますが、それは「くしゃみガス」が噴き出して、あと近隣の店舗から応援を呼ぶだけです。ここなら「月支店」からですが。まあ、ふつう「くしゃみガス」で、対応できますが、ちょっと油断しました。申し訳ないです。』


『はあ・・・相当油断してましたねえ。私に見とれていたの?』


 「アマンダ」が尋ねました。


『いやまあ、特にそういうわけでも・・・。』


『あ、そう。』


 「アマンダ」は少し不満そうでした。


『じゃあ、放りだしたらどうなるの?』


 「ぱっちゃくん」が、こわごわ尋ねました。


『まあ、死にますねえ。普通は。』


『ひええー!こわいー!』


 「ぱっちゃくん」が泣き出しました。


『ふうん。他に方法はないのかい?』


 アマンダが、「ぱっちゃくん」の頭を、なでながら言いました。


『ありますよ。取り押さえた「功労者」が、「許す」という意味の「赦免同意確認書」を書き、犯人が、「宇宙ハローワーク」で仕事の紹介を受けて、就職出来たら赦免されます。』


『ねえねえ。』


 「くまさん」がアマンダのスカートを引っ張りました。


『「しっくん」のお薬を早くもらいに行かなくちゃ。』


『そうねえ。あたしたち、「火星の女王様」に会いに行かなくちゃならないんだ。もうちょっと、スピーディに出来ないかい?』


『え。火星の女王様。それは大変です。ちょっと待ってください。』


 店員さんは、どこかに電話して、何語かわからない言葉で話しました。


『すぐに、担当官が来ます。』


『は?』


 すると、そこに突然ぼわっと煙が上がり、仕事机と、男の人とが現れました。

 髪の毛がもじゃもじゃの、眼鏡の人です。


『宇宙ハローワークの、担当、「ン・シ・マヤ」です。緊急事態とか? 「犯人」さんはどちら?』


『おれだ。』


『ああ、あなたが「犯人」さん。「功労者」さんはどなた?』


 店員さんも、他のお客さんも、「アマンダ」を指さしました。


『ああ、あなた。お名前は?』


『アマンダ。』


『「アマンダ」さんね。あなたは、この男を許しますか?』


『まあ、かわいそうだから、許してあげるよ。』


『では、ここにサインを。はいよろしい。で、今回、お急ぎの事情は?』


『火星の女王さまのところに行って、「しっくん」のお薬をもらうの。』


 「くまさん」が必死に言いました。


『なんと!「火星の女王様」ですか。それは大事(おおごと)ですな。「太陽系内職業安定法」の第92条と第93条の緊急事項の適用と認めます。で、あなたは、どんな仕事をしたいですか?得意な事とかありますか?』


『おれの得意は、「けんか」だなあ。』


『「けんか」では、職業になりません。他に何か?』


『いやあ、まあ・・・・。警備担当とか・・・。』


『なるほど、では、「太陽系内職業安定法」第102条と、「同法施行規則第56条」により、本官がここで「職権にて職業紹介」します。もっとも「功労者」が同意すればですが。ええ、「「功労者」一行が無事に「火星の女王様」に謁見できるまで、道中の警護を行う事。」とします。そのための、宇宙バイクの燃料代を、当局が肩代わりします。ただし、職務を放棄した場合は、「三倍返し」です。それに「処刑対象者」と、なりますのでご注意を。誰に処刑されても、文句が言えませんから。ええ、これは「燃料支給券」です。このお店で入れて行ってください。それしかないでしょうから。食費も支給します。はい、これが「食券」です。「功労者」がお急ぎのようなので、とりあえず、パンとババヌッキ・ジュースでいかが? なお、賃金は、到着後、「女王様」の担当官にこの「紹介確認票」を渡してください。その際「功労者」から「職務完遂証明」をもらって、いっしょに渡してください、そうすると支払われますから。それで、これが「紹介状」です。一枚は「功労者」に渡してください。一枚は、あなたの控え、一枚は、当局の控えです。以上。おしまい。何かご質問は?』


『いやあ、いいよ。』


『お店側に異議がありますか?』


『いや、今回は良いです。』


 店員さんが言いました。


『わかりました、では「功労者」さん、紹介状の半券に、「採用」に丸をして、太陽系時間表示を入れてください。』


『わかんないよ。そんな時間なんて。

『ああ、いいですか、「SUN 0006768 763455 2235」です。はいそうです。あと、これ、「解説書」です、必要な書類関係は、後ろにまとめてあります。じゃあ、以上でありますよお。頑張ってくださいね。』


 担当の「もじゃもじゃ眼鏡」さんは、ぱっと消えました。


『ねえ、早く出発しよう。』


 「くまさん」が、もう気が気じゃないように言いました。


『わかったわかった、じゃあ、あんたしっかり警護しなさいよ。あたしは、一応、地球でも最優秀な、美人魔法使いだからね。』


『最優秀といううのは、初めて聞いたな・・・・』


 「こんちゃん」がつぶやきました。


 「アマンダ」が「こんちゃん」の頭を軽く、突っつきました。

 



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