第9話   「あらし」


『これは大変だ。こおままだと沈んじゃう。』


 大きな牛の「もーくん」が叫びました。


『あそこが、大きな川との合流点だ。』


「くまさん」が言いました。


 見ると、大きな川は、急な大雨で、見る間に、お水が増えてゆきます。


 「ごーごー」と大きな音をたてながら、ぐんぐんと流れて行っています。


 そこら中に、雷さまが落ちてきています。


 それはもう、おそろしい風景なのでした。


『あそこに、このままいったら、いっぺんに流されておしまいだよ。もう。』


 「もーくん」がまた言いました。


『その前の、あの橋の下に避難しよう!』


 「くまさん」が、そう指示しました。


『よいしょ。よいしょ。」


 みんなは必死に「たらい」のまわりのお水をかいて、流れがどんどん早くなる小さな川の上にかかっている、合流点前の最後の橋の下に近づきました。


 そうして、「もうくん」が大きなお口で、がぶっと川岸の木につかまりました。


『ようし、すごい、もうくん。たらいが止まった。そこのくぼんだ所に入ろう。』


 その橋の下には、階段があって、その奥の側がくぼみになっています。


 そこだけは、川の流れが緩やかになっていました。


『やった。ここで、嵐が収まるまで待とうね、』


 「くまさん」が冷静にいいました。


 「ぱっちゃくん」は、もう泣いて泣いて、とてもかわいそうでしたが、「こんちゃん」も、「もーくん」も、ほかのみんなも、いっしょになって、「ぱっちゃくん」を励ましていました。


 みんな同じ、おともだちです。


 少しだけ弱虫でも、「ぱっちゃくん」は、大切な仲間なのです。


『あらまあ、いいところを見つけたわね。』


 魔女が、玉を見ながら言いました。


『これじゃあ、いじめがいがない、というものだね。よし、嵐よしずまれえー。ぷぷぷのホイ!!と。』


『変な呪文。』


 「ちいさいパンダさん」がまた言いました。


『よけいなことを、お言いでないよ。あたしが、自由に決めたんだから。』


 魔女は、ふーっと、一息つきました。


『ねえ、「魔女のお姉さん」は、どうしていじわるするのかな?』


 小さいパンダさんが、言いました。


 実は、小さいパンださんは、とっても頭が良くておりこうさんなのです。


『まあ、お姉さんだって?珍しい子だねえ。みんな「おばさん」って言うのに。』


『だって、お姉さんだから。もしかして、お姉さんは「さびしい」の?』


 「ちいさいパンダさん」が、ちょっと首をかしげて、かわいらしく言いました。


『だって、「しっくん」が言ってた。『いじめる人はね、「しばしば」本当は、さみしいんだよ』って。』


『まあ、なまいきな子だねえ。あたしが、さみしいわけないさ。こんなにいっぱい「ぬいぐるみさん」たちがいるんだからね。』


『ふうん。でも、さみしいから、集めてるんじゃないのかな?』


『おだまり!それ以上言ったら、こわーいめに、あわせてやる。』


『ねえ、ねえ、魔女のお姉さん。』


 こんどは「カリスくん」が言いました。


『ぼくは、五億年位前には、地球に本当に生きていました。そのころは、ぼくは暴れ者で、みんなに怖がられていたんです。でも、ぼくだって、ごはん食べなきゃ生きられないからね。でも、むやみにいじめたりはしなかった。必要なものを、必要なだけ食べるだけ。でも、さみしくはなかったよ。お友達がたくさんいたから。魔女のお姉さんには、本当のお友達はいないの?』


『だから、何だよ?あたしは、「魔女」だよ。あんたが他の生き物を食べたのと同じさ。人間をいじめるのが、あたしの仕事さ。仕事は、まじめにしなきゃだめなのさ。違うかい?』


 魔女が意地悪く言いました。


『そうじゃないよ。今、言っているのは、「魔女」のお姉さんは、さみしいの?ってことだよ。お友達がいないんだったら、僕たちがなってあげるよ。』


 「ちいさいパンダさん」が、問題点を再確認しがら、言いました。


『お友達だって? こんなに、いっぱいいるんだよ。』


『だって、みんな無理やり、連れてきたんでしょう?』


『今ではみんな、あたしの仲間さ。ほら、「ぬいぐるみさん」たち、動き出しなさい。この生意気な子たちをいじめるんだよ。プププ、パパパ、どどーん!』


 魔女が呪文を唱えると、魔法にかけられている、たくさんの「ぬいぐるみさん」たちの目がぎらぎらっと光って、いっせいに動き始めました。


 そうして、ぐんぐん「ちいさいパンダさん」や「カリスくん」たち、「しっくん」のおうちの「ぬいぐるみさん」達に迫ってきたのです。



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