36 AIからのプレゼント

 山本からの返答は、本当に10日後に届いた。USBメモリーに入ったエクセルファイルに保存されていて、かなりの容量がある。

 タイトルは「中盤における周防高校の攻撃パターンとそれに対応する最適な防御システムの提案」と銘打ってある。

 それはずいぶんと手の込んだファイルで、最初のページに記された「パターンA」から「パターンP」というリストをクリックすれば、アニメーションと説明文が出てくるように組まれている。

 人工知能がはじき出したデータに、三谷はこれまで味わったことのない高揚感を覚える。


〇パターンA


・中央付近スクラムからの攻撃パターン。47.6%の確率で実行。

・準備の状態では、相手⑬と⑮の間隔が約4.7メートルまで広がる。

 ※平均は約3.2メートル

・複雑なフェイクプレーが入るが、最後は⑮が突撃してくる。

・防御策は、向津具⑽~⒀が十分に間合いを詰め、⒂が相手⑮を担当する。

 ※アニメーション参照


〇パターンB


・中央付近スクラムからの攻撃パターン。22.9%の確率で実行。

・準備の状態は、⑬と⑮の間隔が約3.5メートルになる。また⑬が⑩よりも2.9メートル後方に下がる。

 ※⑬と⑩との距離の平均は約1.7メートル

・複雑なフェイクプレーが入り、⑮が突撃してくるように見せるのは「パターンA」と同じ。⑮にパスすると見せかけて、外に回り込んできた⑬にパスが回る。パターンAの裏バージョン。

・防御策は、向津具⑽~⒀が十分に間合いを詰め、向津具⒀が相手⑮をチェックして、⒂が相手⑬にタックルする。

 ※アニメーション参照

 

〇パターンC

・・・・・・


「ヤバいですね。かなり的確です。たしかにこの攻撃、実際に試合でやってきました」

 浦は目を輝かせる。

「確率的に高い攻撃から順に頭に入れておけばいいというわけですね。これならパニックにならずに済みそうです」

 神村はいつも冷静だ。

「パターンA~F」はスクラムからの攻撃、「パターンG~L」はラインアウトからの攻撃、「パターンM~P」は密集からの連続攻撃ついて出力してある。

 どのパターンも、事前の相手の立ち位置と、最後に突撃してくる選手がアニメーションを用いてきれいに示してある。まるで答えを先に教えられたなぞなぞのようだ。

「完璧や。周防高校が何をしてくるか、よく分かった」

 三室戸も、苦手な数学の問題を解いたかのような顔をしている。

「これって、べつに反則じゃないですよね?」

 2年生の白石は言う。

「反則じゃないよ。ラグビーだけじゃなく、どのスポーツでも同じようなことをやっている。今はデータが重要な武器だって、太多も言ってたじゃないか」

 三谷は穏やかに答える。

「やばいです。これを実践したら、本当に周防高校に勝てそうです」

 浦は息を呑む。


「さすが愛知国立大やね。これをたった10日で作り込むとは、俺たちの想像を完全に超えてるよ。しかもとてつもなく美しく整理されている」

 太多はため息交じりに言う。

「周防高校の試合を見たことがない学生が作ったとはとても思えんな。人工知能がはじき出すデータってやつは、本当に正確なんだな。すげえよ」

 太多はじっと考えた後で、提案してくる。

「いっぺん、周防高校と練習試合を入れておいた方がいいね。もし向こうが断ったとしても、引き下がっちゃだめだ。絶対だ。この通りに攻めてくるかを練習試合で確認してみるんだ。完璧にディフェンスする必要もない。相手が疑って戦術変更しないように、上手い具合に抜かれてもいいから。コンセプトは、人工知能がはじき出したデータの検証だ。ぶれないように」

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