第39話 取り込み中

遥が目を覚ました時、まず目に入ったのは拳だった。

「―――うわぁっ!?」

反射的に仰け反った遥。鋼の拳はそこをちょうど掠めるように伸びていく。驚くべき身のこなしを発揮し、遥は回避してのけた。いや、体が勝手に動いたのである。

この段階でようやく彼女は、自分が今鶫の中にいること。そしてこの友人がであることを悟った。

「ちょっと待っててください、先輩!」

横に目をやれば、狩衣を着た後輩の姿。彼女は随分たくましく、敵である少女型の巨体の攻撃をいなしている。

「う、うむ」

周囲は鈍色の複雑怪奇な通路。35メートルの巨人でも悠々と通れるここは、まるで「スターウォーズ」のデススターみたいだ、と黒髪の少女は思った。

さして危なげなく、鶫の攻撃は敵の胸板を貫通。撃破する。

「―――終わりました」

「お、お疲れ様。鶫」

背景が急速に流れていく。航空機並みの速度は出ているだろうに、よくぞ激突しないものだ。まぁ亜光速で格闘戦をこなす種族である。それくらいはお茶の子さいさいなのだろう。

「ここは二度目だが、しかしどうなってるんだ?」

です。今。先月。そして、十年前」

言われて、遥の脳裏に浮かんだのは過去の光景。春雷の降り注ぐ山中で出会った碧の幽霊!

「───そうか。あれは君だったのか」

「はい。先輩が覚えてくれていて、嬉しかったんですよ?」

告げて、狩衣の少女は黒髪の少女を抱きしめた。優しくそれを受け止める遥。そこで気づく。

「…これは」

いつの間にか、自分の服装が替わっている。あの代用の布ではない。学校のブレザーになっていたのだ。

「この空間はシミュレーションです。先輩自身も」

「つまり今の私は、鶫の想像の産物というわけだな」

なんだ、死んでも鶫の中にがあったのか、怖がって損した、とひとしきり納得する遥へ、鶫は告げる。

「そんなこと言っちゃダメです。先輩を再構築してから今日まで。先輩が過ごしてきた時間の記憶は私、持ってなかったんですよ?それは先輩が1ヶ月ぶん死んじゃうということです。いやです」

「……そうだな。済まなかった」

人類最後の天文学部長は、後輩の髪を撫でた。穏やかな一時が過ぎ去る。

「これからどうするかね」

「ここのひとたちを助けます。ですから先輩」

そして金属生命体は、宇宙の歴史に刻まれていない言葉を口にした。

「人類勢力として、黎明種族・学術種族連合軍を援護します。この場に存在する最高位の人類として、承認を」

「───いいだろう。北城大附属高校天文学部部長として角田遥が命じる。

全知と全能を以て、敵を退けろ」

「はい」

そうして、碧の巨体は外の世界。熾烈な闘争の繰り広げられる、赤色巨星の内部へと飛び出した。

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