第10話 大きな耳

地球の地表、80キロ以上に存在する電離層はプラズマである。それは電磁波を反射する鏡として作用する。我々がラジオ放送や無線通信を何千キロも離れた所で受信できるのもそこに起因する。

しかし、もちろんすべての電波が反射されるわけではない。また、反射される周波数の電波であってもこのに直交するような入射角の電波であれば反射されずに突破してしまうものも出てくる。

さて。地球上には無数のラジオ局やテレビ局が存在し、電波を発信している。全部ではないとはいえ、それらの電波は地球外へと飛び出していくだろう。電波は光速で飛ぶから、100光年先には100年かかって届く。もし異星人がこれらの局のひとつに耳を傾けたとすれば、それは24時間周期で強弱の変化をつけながら、ドップラー効果を起こすだろう(地球は自転しているからね!)もしこれらを解析することができたならば、電波の発信者。すなわち地球人類の文化を知る機会も得られるはずだ。


「モンティパイソンやザ・シンプソンズなんかを見てこれが標準の地球人類だ、と思われるかもしれないです」


うん。そこが心配だな!

まぁ恐らく大丈夫だろう。現在のテレビ電波の出力じゃ、100光年離れたところから内容を判読できるレベルで検出するためには直径約32キロメートルのアンテナが必要となる。まぁたくさんの受信機を同期させて受信面を増やす方法を使う可能性はあるか。もちろんもっと近ければ、もっと小さなアンテナでいい。

そういうわけで、当面、地球人類が誤解される心配はたぶんない。


「あ。でも、とてつもなく巨大な生物がいるかも。耳が32キロあるような」


なるほど。その発想はなかったな。

実際、地球上に限ってさえ生命の多様性は素晴らしい。

セミ。桜。炭疽菌。マッコウクジラ。蛇。これが同じ惑星上で生まれたということを、予備知識のない者に教えたらびっくりするだろうな。

それを考えると、ハリウッド映画の宇宙人はどいつもこいつも二本脚で歩き、手も二本、目はふたつだ。独創性の欠片もない。異星人がいたとして、人間と同じ形状をしている可能性は低いだろうな。

けれど、私としてはサイズについては制限があるんじゃないかと思ってる。ビルディングのサイズの生物ならば自重でつぶれてしまいかねないし、もっと大きいサイズ。例えば身長が5光分もある生物は、自分の頭をぼりぼりかくだけで5分かかってしまう。神経を通るパルスが光速と仮定してさえだ。これはちょっと厳しい。


「頭のかゆいところをかくのに5分……確かにちょっと嫌ですね」


だろう?だから自然界にはそういう生物はいないんじゃないかな、と私は思う。

ところで。

私はいつになったらこの耳掃除から解放してもらえるのかな?


「もうちょっとだけ待っててください。中々手ごわくて」


分かった分かった。しっかり頼むよ。


「はい、先輩」


  ◇


この時、少女たちは夢想だにしていなかった。

32キロメートルを超える感覚器官を備え、ビルディングの身長を持ち、人の形状をし、「空飛ぶモンティ・パイソン」や「スター・トレック」を受信した異星人らが接近しつつあった、ということなど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る