第17話西村さん 7 新年会
ご宿泊のピークが過ぎると、今度は職場の新年会という「休憩」でホテルが賑やかになります。
ホテルWでは、近隣の公立高校や消防署が顧客のメインです。
さて、友香はどのように一日を過ごしているのでしょうか。
新年会を控えた日、友香の勤務時間は夕方のみが多いのですが、これには理由があります。
お食事のみの休憩で心身ともに困憊するので、昼間は休めということです。
ですが友香はじっとしていられません。
あるときは市立図書館でホテル業に関する資料を読み漁り、またあるときは未来の武器である中国語を勉強します。
友香は誰にも負けない武器を求めているのです。
そのためには休む時間など必要ありません。
そして十三時ごろに、昼食を摂ります。メニューはご飯と味噌汁、サラダです。
その後食器を片付け、掃除や洗濯をして身支度に入ります。
十五時半に出社し、お客さまの情報が詰まった指令書をチェックします。
そこから友香のホテルマンとしての一日がスタートします。
新年会においては、一人あたりの飲み物代の予算内でどれほど売り上げられるのか。また料理の献立はどのようになっているのか。
並行されるご宿泊のお客さまの夕食においては、隣接する食事会場の騒音が気にならないように配慮できるのかどうか。
食物アレルギーをお持ちでないか、飲酒されるのか、飲酒されない場合はソフトドリンクをいかにして売り上げるのか。
友香の脳はエネルギーを分散化して、シナリオを作り始めます。
一方、体はフロントとしてお部屋案内のため館内を巡り、チェックインが落ち着くと、今度は仲居としてお食事の準備でホール内で動き回ります。
新年会とご宿泊の夕食、どちらの会場に友香が就くのかはその日によりますが、お客さまの様子を伺うことに関しては何も変わりはありません。
飲酒されていらっしゃれば、後出しの料理提供を若干遅らせる必要があります。
そのお客さまにとってはメインがお酒だからです。
そこで注意いしなければならないのは、室温です。
この時期は鍋ものの料理も提供しますので、暖房の効いた部屋がさらに暖まります。
するとアルコールが体内を巡る速度が上がり、比較的酔いやすくなります。
お客さまのお顔が赤くなる前に、暖房を切っておかなければなりません。
以前、友香はこれで一度失敗しています。
暖房を切っていなかったことで、お客さまは悪酔いし食事会場で嘔吐してしまいました。
その後の対応に、友香と支配人は追われました。
お客さまが去った後、会場の窓を全開し空気清浄機を最大限に活用しました。
友香はお客さまが使われた食器、お膳すべてを熱湯消毒。
支配人は会場全体に次亜塩素酸スプレーを撒きました。
その日そのお客さま以外に誰もいらっしゃらなかったことと、翌日お客さまが気にしていない様子だったことが不幸中の幸いでした。
この出来事を教訓に、友香は飲酒に関して敏感になりました。
これからピークを迎える新年会でも同じ失敗が起こらないように、細心の注意を払います。
そこでも友香は多大なエネルギーを消耗しますが、同時に別のことでも脳を酷使します。
従業員に対してです。
友香は従業員の言動においても敏感に反応します。
今は怒っている、声をかけるべきではない、冗談を言っても良い雰囲気だ。
友香は恐ろしいほど正確に相手の心情をキャッチします。
本来の友香は天然ボケと称されるほど鈍感だったのですが、いつしかその称号は掻き消されました。
年齢とともに社会経験を重ねたことにもよるのでしょうが、もっとも大きな理由は次のエピソードで明らかになるでしょう。
話は変わりますが、最近のエピソードでは西村との接点が描写されていません。
これには理由があります。
早朝と夕方勤務、称して中抜け勤務の場合、友香と西村は入れ違いになるのです。
西村のメインの勤務が早朝から夕方までの勤務だからです。
友香が西村と関わるのは、チェックインの機会が増えるとき、つまりご宿泊のお客さまが多いときです。
または、週末の稼ぎどきである昼の法事食事会にて仲居として活躍するときです。
それまでは、友香単独での活躍を応援してくださるよう、お願いいたします。
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