第14話西村さん 4 番長

 さて、ホテルWの食事会場には番長と呼ばれる人が存在します。

 ふじという六十代の女性です。

 彼女は膝こそ悪いゆえに裏方に回っていますが、表舞台で働く人たちの動きを支配しています。

 「よ空いた皿を下げてこんね!」

 「さっさと動きなさい!」

 「私はやかましかと!」

 友香を含む、食事サービスに携わる仲居はお客さまよりも藤に気を遣います。

 仲居の経験が浅い友香は今でも藤に怒られてばかりだと言います。

 「自分の仕事もまだまだなのに、馬鹿じゃなかとや!」

 誰かに手伝いを要請されて加勢すると、友香の動きを止めます。

 仕事が終われば藤は人の良いおばさんに豹変しますが、それでも友香は藤にビクビクして手がまごつきます。

 そんな藤が受け持つ裏方の仕事は主にドリンク、食器の在庫管理です。

 他にはオーダーの出たドリンクを作ったり、皿洗いの加勢もします。

 それゆえか、友香は多忙を極める繁忙期や土曜日、日曜日が苦痛です。忙しいときが藤の出勤日なのです。

 さすがの西村も藤の言動には敏感なようで、口数が少なくなります。

 「加東さん、藤さんという女性に気を付けてくださいね」

 初対面の日に言った西村は、友香の入社前に一度だけ藤の前で泣いたことがあるそうです。

 「ああ、番長ね。もう会っているよ。本来のホテルって、あれくらい厳しくなければね」

 微笑んだ友香の目は、西村にはどのように見えたのでしょうか。

 友香の闘志が透けて見えたのでしょうか。

 それとも、ただ人の良い女性に見えたのか。

 それは西村に訊かないと分からないことです。

 どちらにしろ、友香の心は不安と負けん気が混ざっていました。


 このホテルでやっていけるのだろうか?

 今は難しくても、きっと藤の厳しさを利用して、心身ともに成長してみせる!

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