第6話東くん 6 縦社会

 「東くん、どうして駐車場に立っているの? 私と一緒に行動するようにって、太田さんから言われているんじゃないの?」

 夕日が眩しい中、東は駐車場の隅に立つことが多くなったそうです。

 友香行動をともにする東は、友香同じフロントとしてロビーでお客さまを待機しなければなりません。

 これでは研修にならないと思い、友香はついに太田に相談することにしました。

 すると太田はこめかみに血管を浮かばせ、東のもとへと大股で進みました。

 「東! いい加減にしろ! 俺たちは何年もキャリアを積み重ねたプロだ! お前がどんな考えでこの場に立っているのか知らんが、先輩が経験していることに歯向かうな! この際はっきり言うが、お前が研修を終えようが途中でドロップアウトしようが俺には関係ない! だが、ホテルマンのプライドに泥を塗ることは許さん!」

 すると東は涙を流したそうです。

 これでは仕事にならないので、仕方がなく早退させました。

 冷静を取り戻した太田は、数日前の友香のように目に手を当てました。

 「東くん、大丈夫かなー? 明日、ちゃんと来るかなー?」

 けれど太田の不安は翌朝無事に解消されました。

 目を充血しながらも、東はきちんとした身なりで出勤してきたのです。

 太田と友香はほっと胸を撫で下ろしたそうです。

 念のため、友香は東にこう言いました。

 「東くん、太田さんが怒ったのはあなたが嫌いだからじゃないのよ。真剣に考えてくれなければ怒らないわ。私だっていまだに怒られることがあるのよ」

 「え、加東さんがですか?」

 「そうよ、どうでも良かったら何も言わないもの。私も、東くんも成長してほしいっていうのが、太田さんの願い」

 それにね、と友香は付け加えました。

 「ホテルにみたいな縦社会は辛いこともある。でも、がちゃんと導いてくれるから悪くないものよ」

 友香の言う先輩にはある人物が含まれていません。

 それは次のエピソードで分かることでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る