第12話 恋はどんな気持ちか?
「男はこれだからな。案内した場所っていうのは、激安ショップ中心で、男が好きな場所ばっかりだ」
「男勝りのお前が女の子の店を知っているとは思えんがね」
当一が言うと、当一の眼前に拳が突きつけられた。
「二度と言うんじゃない。温和な私でも琴線というものがあるんでね」
「失礼」
当一はそう言ってスゴスゴと退散をしていった。
三人はお菓子がメインの喫茶店に入った。当一はトイレに行って席をはずしたら一美は一言言い出した。
「さて、初めに言っておくがな」
「不純異性交遊はゆるさない。とか、かしら?」
リーシアはクスクスと笑いながら言う。話を出鼻からくじかれた一美は、言葉に詰まる。
「あなた。当一の事が好きなのはわかったけど、あんな態度じゃ嫌われてしまうんじゃないかしら?」
「私は、あいつの事なんて何とも思ってない!」
どこかの教科書にでも乗っているような典型的な返しであった。
「あら、勘が外れたのね」
それ以上深く話す気のないリーシアはクスクスと笑っていた。
「実はね、私も当一に惚れてるの」
冗談で言ったか、本気で言ったかわからない様子であった。一美は顔を逸らしながらも横目でリーシアの事を見ている。
「そんな話をされても面倒なだけだ」
それを言うと、一美は完全にリーシアから目をそらした。
「だけど、友人に譲ることにしたわ。あの子もなんとなく当一が気になっている様子だったから」
やはりわかりやすい一美はリーシアに向けて身を乗り出して聞いてきた。
「どんな奴だ?」
「石頭で、まっすぐで、不器用な子よ。ちょうどあなたみたいに」
分かった風な口をきくリーシアだが、自分がまさにその通りであると自覚している一美は反論ができない。
「私も昔、好きな人がいたの。もう会えないけど」
話を変えたリーシア。
「恋ってどんな感じか知りたくない?」
「言いたければ言うといい」
その言葉は、一美なりの知りたいという意味の言葉だ。リーシアは素直になれない一美を見て、まさにシェールそのものだと思い。さらに笑った。
「どんな感じにもなるわ。その人のためなら死んでもいいくらいの気持ちになれるの。彼の事が気になる。それが恋。想いの強い弱いの差があるだけ」
リーシアは、恋とはそういうものであると思う。
どんなものでも恋は恋だ。定義はない。だからこそ、複雑で厄介なのだ。
「幼馴染ってだけだ。当一の事が好きな子がいるなら、譲ってもいいと思う」
一美としては、自分が当一の事をすきかどうかも判断できていない。もしかしたら別の感情かもしれないという可能性も存在しているのだ。
これが恋でないとしたら、これではただの赤っ恥ではないだろうか。
「逃げちゃだめよ。恋かどうか確かめる事自体がバカげているの。気になるなら近づいていくといい。恋かどうかなんて後でも確かめられるんだから」
シェールに当一の事を譲ったリーシアの言えたことではない。だが、心の底からそう思っている。
一美の恋は応援したい。自分とシェールは、戦いが終わったら離れて二度と当一に会えなくなる間柄なのだから。
それに、リーシアはシェールに何かを言える立場にない。
彼女が自分で決めたのならば最期まで応援しようと思う。それは一美の事を応援しないという意味ではないところが、リーシアのいやらしいところだ。
「無責任だぞ」
当一の事を狙う二人。一美とシェール両方の応援をすると言うのだ。一美はそれを聞いて俯いていた。
「なんだ? 一美が落ち込んでいるようだぞ。何かあったのか?」
当一が戻ると疑問げに言う。
「ちょっと一美ちゃんをいじめていたの」
とぼけたリーシアの言葉。当一はその言葉を真に受けてリーシアの額をコツンと叩いた。
「こいつは性格が悪いからな。こいつに制裁を与えれる奴はいるから、遠慮なくいった方がいいぞ」
「今はいい」
一美は短く答える。
「そうね。当一にバレたら恥ずかしいものね」
クスクスと笑っていうリーシア。それを見ると、どうせロクな事は言っていないだろうと当一でも分かる。
リーシアが何か陰険な事をしたというのは分かる。だが当一にわかるのはそこまでだ。
それだけ言うと、当一はリーシアの手を掴んで喫茶店から退室していった。
喫茶店から出てきたリーシアと当一。その後、順調に当一から激安のお店を教えてもらい、帰るところであった。
「それで、シェールとの関係は改善したか?」
「はい。順調に悪化していますよ」
悪化していると悪びれもせずに言うリーシア。
「お前は仲良くやっていく気はないのか?」
「あの子が望めばね」
自分はシェールには近づいてはいけない存在だと考えているリーシア。
シェールはリーシアの事を避けているようだ。
「人殺しをした私が、あの子に近づこうなんて思ってないのです」
リーシアの意思はそうらしい。
リーシアと仲良くやっていくかは、シェールが決める事である。そういう態度だった。
「そんな事を気にするなよ。お前はどう思うんだ?」
「近づくのが怖いというのが本音ですかね。シェールの負担になりたくもないですし」
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