第11話 一美の紹介
「うちに住むのなら覚えておいてほしい事がある」
当一はある場所を目指していた。
「うちは昔から懇意にしている家があってだな」
いわゆる家族ぐるみの付き合いをしている家がある。そこの娘は当一の同級生で、同じ学校に通っている。
「いずれ会う事になるだろうから」
そう言い、リーシアをその子の家にまで連れてきた。
「大きいお屋敷ですね」
「なんでも先祖が武家だったとかいうんだ」
その武家の血筋という事もありこの家の主は警官をしている。息子はおらず娘が一人。将来婿を取るとか言う話も聞いたが、それは十年後の話である。
「先に連絡もなしにいきなりお邪魔とかは許されないところだ。今日は門を見るだけだな」
当一でも、いきなり家のお邪魔をしようものなら、門前払いをされる。なかなか厳しい家庭で、娘の一美も風紀委員に自薦するほどの風紀の鬼だ。
「あら。私とは気が合わなそう」
「そういう事を言うな。仲良くしようとしろよ」
この家の紹介が終わった当一は次の場所に向かった。
「うーん」
人の多い町を歩いているとリーシアが唸りだした。
「どうしたんだ? 安い服屋とか安いお菓子屋とか、まだ紹介したいところもあるんだが?」
「どういえばよろしいのかと思いまして」
当一が戦いについてうるさく言ってくるのはリーシアも知っていた。後を追われているようだから犯人にどう対抗をしようかを考えているのだ。
当一にバレると面倒そうだし人目の多いこんな場所でドンパチを始めるわけにもいかない。
だからと言って追われ続けるのも気味が悪い。
「当一。つけられています。どこか人目につかないところに行きましょう」
リーシアが当一の耳元でそう囁くと殺意が膨らんでいくのを感じた。
ピリピリと体中がしびれる感覚を少しばかり感じるリーシア。
それを感じるとリーシアは体がウズウズしてきた。足が震えて今にも動き出しそうなのを抑えながら、当一に肩を叩きすぐ横にあった立体駐車場に入る。
ここなら人目にはつかない。車の出入りのない高い階にまで登り周囲に人がいない事を確認するとリーシアは後ろを振り返った。
車の影に隠れて自分達の事をうかがっていた相手に向けて駆け出した。
相手の反応は遅れた。まさか尾行がバレているなんて、全く思っていなかったのだ。
リーシアが自分の事を狙っていると気づいたのはリーシアが拳を握って尾行者に拳をを振り下ろす直前だった。
「待て! リーシア!」
当一の声を聞き拳を止めて相手の事を羽交い絞めする形で、とりあえずは終わらせた。
「状況を教えてもらいましょうか?」
当一と尾行者に向けて質問をするリーシア。
「さっき話した一美だよ」
「なんか、さっきお前はニヤニヤ笑っているように見えたんだが」
「ごめんなさいね。普段の練習の成果を見せる時って思うとつい」
リーシアが一美の事を開放したあと、当一が一美から話を聞くために近くのハンバーガーショップに行った。
「武芸はそんなふうに使うものではないぞ」
「失敬」
一美の言葉をサラリと流したリーシア。
「今回は私が悪かったが。軽い気持ちで武術を使わないようにな」
「失礼しました」
リーシアと一美の会話はのれんに腕押しという感じだ。全く反省していないのは一目でわかる。
「それで、一応聞くがなんで俺たちの尾行してた?」
「不純な行為を行わないか監視していた」
「お前は俺のかーちゃんか」
自信満々でさも当然の事のように言う一美。当一の返答も聞いていないようだ。
「それで、自己紹介もまだだったが、その子はどこの子だ?」
「あっ……」
異世界からやってきたなんて言うわけにもいかない。言い訳くらい用意しておくべきだったと当一も思ったが、リーシアが先に返答をした。
「当一さんの家にホームステイする事になったんです」
リーシアは当一に助け舟を出した。
「君はどこの国の子だ?」
リーシアの紫の髪をどう説明すればいいだろうか? 当一は言葉に詰まったが、リーシアはサラサラと答えていく。
「中国の山奥の村の出です。この髪は村の風習で赤ん坊の頃から紫色の染料を頭皮にしみこませて、この色にするんです」
「それにしては日本語が流暢だな?」
「中国といっても全員が広東語や福建語を使うわけでもありません。私の村は特殊な言語を使っており、母国鈍りで話しても、日本語と見分けがつかないと有名なんですよ」
「ああ。分かっている。中国でも地方によって言葉が違うからな」
なんでリーシアがそんな事を知っているのか?
一美がうんうん唸っている。今の話に怪しいところはないかを考えているのだろう。
『理論武装よ。何を言われるかを、先に考えておいて、言い訳くらいは用意しておくの』
ちいさく当一に聞こえるように言ったリーシア。
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