第4話 昔の友人

「つまり、格下の相手と戦わなければいいんでしょう?」


 次の日、レイグネンに行くとシェールは最初に言う。

 勝っている戦いというのは暴力にしか見えないものだ。真剣勝負は強いほうの一方的なものになるのが普通。その事実は変えようがない。

 だが、一方的な勝負は見ていて綺麗なものではない。見た目が悪いから当一は文句を言った。

 シェールの解釈としてはそのようなものであるらしい。


「そういう問題じゃなくてだな」


「どういう問題なのか? 考えがまとまったら教えてちょうだい」


 当一が何も考えずに文句だけ言っているような言いようだ。


「ご機嫌を取る必要ないわよね。私を止めるために参加してくれるんだっけ?」


 シェールの嫌味に当一は黙る。


「今日も反応があるの。多分私と同格の相手よ」


 シェールは幻想王の指輪の存在を感じることができるらしい。敵の強さも大体わかるという事だ。


「街の中から反応があるわ」


 シェールは街道の先にある街を指さした。


 街は西洋の中世の街らしく高く積まれた石の壁の中に木製の家が並ぶ形だった。

 街は城塞と同じで街の中の人間を盗賊から守る機能や、戦争の時に人々が逃げ込む機能も持っている。

 中は一本の大通りが通っており先を見ると城塞が見える。

 市場の大通りの両側に店が並んでおり、果物や肉類を売る屋台がある。

 看板には文字ではなく野菜や牛などのイラストの描かれた看板がかけられていた。それはこの世界の識字率の低さを意味する。


「ここにするわ。あんたもここで待ちなさい」


 ベッドの絵が描いてある看板があった。


「宿屋?」


 当一はそれを見てシェールの方を向く。


「なんだ? 今度は自分の体で買収でもしようってのか?」


「キモい妄想を言うな」


 シェールはあきれ顔で言う。


「あんたはここで待ってて。よく考えれば最初からこうしていればよかったのよ」


 当一をここで待たせておいて、自分一人で戦いに出ればよかった。そういう意味だった。


 当一は宿の一室に案内された。


「いい事? あんたは誰が来てもドアを開けちゃだめだからね」


 子供に留守番を頼むような言い方で当一に言うと、宿の外に出ていった。

 またあんな事をするつもりなのだろうか。

 当一は窓からどこかに向かうシェールを覗き見てそう思う。


「メイディーって子は大丈夫だったのかな?」


 こんなバカげた戦いが行われている。あのメイディーって子はその被害者なのだろう。

 シェールは王座を手に入れるためだけにこんな事をしているし、メイディーに当一の彼女になるように言っていた。

 当一自身も、シェールの行動には憤り感じる。どうにかしてこれを止めたいと思った。


「でも、俺にできる事なんてないんだよな」


 当一は自分が無力である事を感じた。シェールの事を止めるどころか、こうやって邪魔者扱いをされているだけ。

 当一おもむろに部屋に備え付けられていた箒を持った。

 当一は幼馴染から無理矢理叩き込まれた剣道。その素振りを始める。

 無性に力がほしくなった。シェールが自分の事を認めるような力だ。彼女を止めるためには、邪魔者扱いを受けているだけではだめなのだ。

 幼馴染みから無理やりやらされているだけで、面倒でしかなかったが、今はそれに気持ちをこめていた。

 箒を振り、ヒュッと音が鳴る。その音がいつもより大きく聞こえた。

 集中をして、今より強くなる事を願って箒を振る。


「こんなんで強くなんてなれるかよ」


 自分の行動にもどかしさを感じた。

 何もないところで箒を振っていても強くなどなれるわけもない。

 だが他に方法を知らない当一にはこれ以外にやれることがなかった。

 悔しいと思い、奥歯を噛みながら素振りをする当一。

 そこに、ドアをノックする音が聞こえた。


「初めまして、私は魔法屋です」


 聞いた言葉は今の当一には願ってもいないビッグなチャンスであった。


「魔法って買えば手に入れられるのか?」


「はい。魔法を使えるようになる指輪を使います。すぐに魔法が使えるようになりますよ」


 どこまでもここはゲームの世界のようである。

 魔法を一つ覚えれば一足飛びで強くなれるかもしれない。

 当一はその声を信じてドアを開けた。


 シェールはジェズルの反応を追っていた。

「この街の中にいるのは確かなんだけど」

 そうはつぶやくが反応は全く見えない。おおまかな方向がわかるだけである。

 だが反応の位置から見るに、もう見えていてもおかしくないくらいの距離であるはずだ。

「何かお困りかしらね?」

 後ろから声をかけられ、シェールは背後を向いた。

「リーシア。どうしてそいつと一緒に?」

「ジェズルの反応を追えるのはあなただけじゃないのよ。あなたは前々から頭が固いのよね」

 紫色の髪が長く伸ばされ、人を疑うような目つきを常にしている魔術師だ。

 人を食ったようにクスクスと笑い、シェールの事を見下ろした。

「あなたは、まだ私を恨んでいるの? 何で恨みを買ったか覚えてすらないのだけど」

「私が憎いのはあなたの存在そのものよ」

 空中に浮かぶ魔法の玉の中に眠らされた当一がいる。

 いますぐにでもセイフティリングを破壊することができる状態であった。

「なんでリングを破壊しないのよ」

「私の性格がねちっこいのはあなたも知っている通りよ。私はね、本当の意味であなたに勝ちたいのよ」

「リングを壊せば勝ちでしょう?」

「分からないかしら? そんな勝ちは私の望む勝ちじゃないのよ」

 当一を取り戻したければ明日の正午に街のはずれにある丘にまでやってきて勝負をする事。それを言い残したリーシアは使い魔の鷲を召還して、それにぶら下がり空へと飛び立っていった。

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