第2話 王を決める戦い

「いい景色でしょう?」


 シェールは当一に向けて言う。


「なんで体が動かないんだ?」


 当一は直立不動の姿勢で固められていた。


「いい景色でしょう? 先にそっちを返事しなさいよ」


 そう言い、パチンと指を鳴らすと当一に体の自由が戻った。


「その幻想王の指輪をはめていると、私の思い通りにあなたを動かすことができるの」


 当一が回りを見回すと、日本の風景には思えない場所が広がっていた。

 遠くに見える壁に囲まれた街の中にはレンガ作りの家が多数建つ草の生えた平野が広がり、土を盛っただけの簡単な道がある。


「中世のヨーロッパか? ここ」


 道がアスファルトで出来ていない所を見るとそれくらいの時代であると見えた。


「そっちの方が機械が発達しているからね」


 シェールはそれから歩き進んだ。


「さて、これから何をするのかを説明しましょうか」


 当一は後に続きながらシェールの説明を聞く。

 シェール達がしているのは王の座を決める戦いだ。

 国王が崩御をすると、その日以降一年間に生まれた子達全員に王位を取る権利を与えられる。

 十五年後に、権利を持つ十四歳の子供たちが戦い合い、最後に残った一人が王座を得るというのだ。


「よくライトノベルとかである話だな」


 当一はそう言ってから続きを聞く。

 当一の役目はジェズルというらしい。

 権力を象徴する杖の事である。敵から攻撃をされると当一の指輪から当一を守るバリアが貼られる。

 何度もたたかれ、バリアが破れた瞬間が敗北の瞬間となるのだ。


「ボコスカ殴られるのかよ」


「あんたはいいでしょう? 生身で殴られる私達の事をちょっとは気にしてほしいわ」


「機嫌悪いのか?」


 当一がシェールの背中に声をかける。ピクッと足を止めたシェール。


「そう思うのなら話しかけないで」


 その言葉を最後にシェールは無言になり、必要ないうちは一言も発さなくなった。


「獲物が見えたわ」


 今は街道を歩いていた。土は固くて踏みしめるとアスファルトのような固い感触であった。

 道の先に一組の男女がいた。

 その男女はシェールの事を見つけると逃げ出したのだ。


「待ちなさい! 卑怯者!」


 シェールは当一の足では追いきれないくらいの速さで走った。すぐに先に見える二人組のところに到達し、小さな女の子を叩き飛ばした。

 道から外れた草むらの中に転がっていく女の子を尻目に、男の方に剣の切っ先を向けた。

 無茶苦茶に振り回す剣だが、それはバリアによって弾かれる。

 バリアにどんどんと亀裂が増えていき、シェールの放ったトドメの突きでバリアを粉砕した。

 そうすると男は幻想王の指輪から放たれる霧に包まれた。

 すぐに霧は晴れる。男の姿はなくなっていた。


「あの人はどこいったんだ?」


「元の世界に帰っただけよ」


 男の方はそれでいいとするが、シェールが草むらに突き飛ばした子の方はどうなったのだろうか?


「君! 大丈夫か?」


 当一の声を聞くその子。草むらの中から体を出して起き上がると、シブシブと言った感じでシェールの前に進み出てきた。


「いきなり私に当たるなんて運がなかったじゃない」


「好きにして」


 シェールは機嫌よさそうな顔をしていた。それに対して倒された女の子はあきらめたような態度だ。


「メイディー。勝者の権利としてあなたに命令します」


 頷いたメイディーと呼ばれた子。


「この当一のカノジョになりなさい」


 当一もメイディーも困惑した様子だった。


 メイディーは、当一の隣に立って一緒に道を歩いている。


「ほらひっつく。胸を思いっきり押し当てなさい」


 シェールは言っていた。その通りにメイディは当一に体を預けて胸を押し当てていた。


「これってなんなんだ?」


「いいわよ。説明をしましょう」


 この戦いのルールでは、負けたほうは勝った方のいう事をなんでも聞かなければならない。

 今は、当一の彼女としてふるまうという指示が出されているのだ。


「彼女なんて、そんなのいらないぞ」


「ウブなおぼっちゃんにはいきなり彼女なんて気が早すぎたかしらね」


 そういう意味ではない。当一はシェールをきつくにらんだ。


「メイディーに『自由にしていい』って言え」


 シェールは思考が止まった感じだった。


「解放したら、あなたは何のために戦いに参加するの?」


 ジェズル達にはこういった役得がある。

 敗者はどんな命令でも聞かないといけないのだ。そして、それはこういうふうに使われるのが普通と、シェールは言う。


「とにかく一旦離れてくれ」


 当一はメイディーを強引に引き離す。


「俺はこんなの聞いていないぞ」


「教えていたら断ったでしょう?」


「分かっているならやるな!」


 当一は怒りを露わにして言う。

 涼しい目をしていたシェールは当一に向けて聞いた。


「為政者とはこういうものだと思わない?」

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