今時、王の座を狙って戦う美少女達の戦いって……

岩戸 勇太

第1話 因縁の二人

 大理石の彫刻が並び刺繍をされた赤い絨毯。

 天井からはシャンデリアが吊るされており、百人以上を収容できるこの部屋の壁には絵画が並べられていた。

 ここにいる者は自前の武器と防具の装備が義務付けられていた。

 剣を持つもの、弓を持つもの、斧を持つものなど様々だ。

 その中で女の子の戦士と女の子の魔術師が向かい合っていた。戦士は魔術師の事を射抜くような目で見ている。


「あんたも参加できたのね」


「あれ? 殺人者が参加できないなんて聞いた事ないけど?」


「よく顔を出せたわねって言っているの!」


 魔術師を侮蔑する態度の戦士。クスクスとそれをあざ笑う魔術師。

 ここは王宮の広間。十四歳になった少年少女たちが集められ大臣からの言葉を待っていた。

 ここにいるのは身分など関係ない者達だ。

 この参加者たちをもてなすために心ばかりの料理が出され、一人に一つずつワイングラスが渡されており、ここで働く使用人に一言言えばワインを注いでくれる。


「ようこそ、栄えある未来の国王候補よ」


 大きく開け放たれた扉をくぐって大臣がそう宣言した。

 この国は国王が崩御してから十四年が経っており、また日が昇ると十五年目となる。

 その瞬間に戦いが開幕する。


「ジェズルを使役するための幻想王の指輪を支給する」


 大臣が言うとメイド達がパーティの参加者達に一人ずつ指輪を配った。

 戦士と魔術師の所にもメイドがやってくる。ペコリと頭を下げて一礼をしてから幻想王の指輪を二人に渡した。


「君たちの思いが幻想から本物になるとき、我が国をあげて君らを祝福しよう」


 大臣がそう言うと手を叩いた。


「これにて譲渡の儀式は終わりにする。時間になるまで楽しんでいってくれ」


 それを聞くと多くの参加者達は広間から退室していった。

 戦士も退室しようとするが魔術師の声に止められる。


「早めに仲間が見つかればいいわね。『ドラグーン』なんて部下がいなけりゃ何もできない剣を振り回すだけの存在でしかないからね」


 ドラグーンとは司令官の意味だ。味方を援護する能力に特化したもの。


「あんたもフィストセージを選んだ理由がわかるわ。接近戦も魔法戦もまんべんなくできる『ブレスフレイヤ』を選ぶなんてね。一人だけで戦って一人で優勝する事を狙っていそうだし」


「不可能ではないけどね」


 クスクスと笑って見せる魔術師。首からぶら下げた、特殊な種の入った小さな袋がカサリと音を立てた。

 『拳の賢者』の意味を持つブレスフレイヤ。その意味の通りに、拳での戦いも、魔法での戦いも可能である。


「戦う事なったらよろしく」


 魔術師は戦士に向けて言う。


「リーシア。救ってあげてもいいのよ」


「私の望みは、あなたがはいつくばって私に従うと誓う事よ」


「救いようがないわ」


 それで最後とばかりに、戦士は魔術師に背中を向けた。


「リーシア。生き残れるといいわね」


「シェール。あなたこそ、私に倒されるまで負けるんじゃないわよ」


 戦士がシェール。魔術師がリーシアという名だ。

 幼馴染で昔は仲もよかった二人は、お互いに別の道を歩いているのだ。




 先塚 当一(さきづか とういち)は帰路についていた。

 いつも絡んでくる幼馴染から逃げ切って帰宅部としての活動としてさっさと帰宅していたのである。

「当一。お客さんよ」

 家のドアを開けると母の祥子からそう言われる。

 お客さんと言われて思い当たるところならあるのだが、それは幼馴染の一美(いちみ)の事だ。一美だったら祥子は『一美ちゃんが来たわよ』と言うはずだ。


「誰かがプリントでも届けに来たかな?」


 当一はそう言いながら自分の部屋に入るために階段を上る。

 自分の部屋に入ると剣士が立っていた。

 西洋の胸当てと鉄でできたグリーブ。サークレットを頭に取り付けている。

 それらはすべてが赤い。

 ドラゴンの目のように瞳が真っ赤なその子は当一を見ると一礼した。


「突然の訪問をお許しください。本日は伝えたいことがあって来ました」


 それから剣士が始めた言葉は、異世界で王をめぐる戦いが行われているから、当一も参加をしてほしいというものだ。


「詳しい説明の前にこの指輪をお付けください。顔を合わせた記念という事で」


「指輪ね」


 当一は言う。その指輪は自分の指にぴったりはまる。

 デザインかと思っていた指輪の模様が光る。そうすると指輪はいきなり縮んで当一の指にピッタリと張り付いた。

 まるで皮膚の一部になったかのようにして、回すことすらできなくなった。


「はめたわね」


 いきなりニヤニヤと笑いだす戦士。


「我々の異世界。レイグネンにようこそいらっしゃいました」


 戦士のその言葉を皮切りに。足元に魔法陣が浮かんだ。


「なんだこれ!」


 当一の足はその魔法陣に底なし沼にはまるようにして沈んでいった。


「説明よりも体感よ。そこまで体が浸かったら逃げられないわよ」


 ニヤニヤしている戦士。そして小さく咳払いをして、また礼儀正しい戦士に戻った。


「ジェズル様。私はシェール・グスタークと申します。長い交流になる事を切に願いますわ」


 また意味の分からない事を言ったシェール。当一は指一本動かすことができずに、魔法陣に飲み込まれていった。

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